裏話  3月

〜 激しい三寒四温とブドウ畑 〜

 



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En avril, ne te découvre pas d’un fil

「4月中は、糸一本も脱ぐな」

フランスのとても有名な諺だ。これは「春先の薄着は禁物」の意だが、確かにフランスの三寒四温は日本より激しい。今年も3月上旬に全国的な積雪が見られ、私の在仏中に体験した最も遅い積雪は、2003年4月上旬のものだった(ブルゴーニュ)。しかもこの時は2週間後に半袖で過ごせる25℃前後まで気温は上昇したのである。衣替えは容易ではない。

ところで今年はブルゴーニュで隔年開催の移動大試飲会「Les Grands Jours de Bourgogne」が開催される(3/20〜25)。前回2004年の入場者数は16000名を超え、うち60%は海外30カ国からの参加である。日本人の正確な入場者数は把握していないが、期間中は感覚的にオスピス・ド・ボーヌよりも日本からの知人と会うような気すらし、そのせいか「この時期のフランスはどれくらいの暖かさですか?」という質問をよく受ける。だが答えとしてはやはり「4月中は、糸一本も脱ぐな」だろう。特に古いシャトーや屋外テントで開催されるものは、冷え込む時はとことん冷え込む。基本的にワインは吐き出すが、それでも少しずつ体に取り込まれるアルコールもあって、寒さを感じ始めると試飲はかなり辛くなる。陽気に恵まれる日もあるとは言え、連日の快適な暖かさは期待しない方が良い。

だが過酷な三寒四温がある中で、ブドウ畑では今年も地道な作業が続いている。もちろんその作業とは「機械化が最も不可能」と言われる「剪定」だ。2月に再来日したシャトー・ド・ポマールの栽培責任者ドミニク・ギュヨン氏(当HPお馴染み?)より、今冬の剪定作業の写真を頂いたので、ここで紹介させて頂きたい。これらの写真は背景に黒いビニールシートを配して撮られた力作。当HPの「畑仕事の一年」で掲載したものよりも遙かに分かりやすい。ちなみにタイユ・ギュヨでは株は非常に短く低く仕立てられ、剪定では毎年2本の主枝だけを残す。その1本が結実枝(今年実を付ける枝)であり、Baquette(バケット)と呼ばれる。結実枝には芽を6−8個残し、90度に曲げ、地上40cm位の高さで1番低い整枝用針金に結んで水平に固定する。別のもう1本の枝Courson(クールソン)は、芽を2つだけ残して短く刈り込む。これが翌年の更新枝となる。

 

作業前 作業中
残された2本の主枝、バケットとクールソン 確かに2芽(クールソン)。またバケットは5芽と厳格。
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 最後に。渡仏される方から「フランス人に喜ばれるお土産」もよく訪ねられる質問だ。食料品ならなぜか「カステラ」は外さないと言われており、あられや煎餅類も無難なようだ(ただしフランス人に激辛系は避けた方が良い)。しかし食べ物以外で最近気付いたのが、冬季限定だが「ホッカイロ」である。日本人にとって当たり前であるホッカイロは、意外にもフランスでは生産されていない。私はアパートの管理人に「貼るだけで暖かくなる、あの素晴らしい日本製品を冷え性の母親に買ってきて欲しい」と頼まれたが(どうやら同じアパートに住む日本人に貰ったことがあったようだ)、極寒でも屋外の作業を強いられる生産者たちには重宝して頂けるのではないだろうか。ともあれ靴先から忍び込んでくるような畑のあの寒さは経験しなければ分からないもので、3月の春は近いようでまだまだ気紛れだ。