裏話 2007年11月
〜 ボルドーのトラム君 〜

  


 

ベイシュベルのシャトー側から、シャトーの庭を見る。向こうにぼんやり見えるのがジロンド河だが、河までは実に2キロ。個人の敷地内に2キロの余裕、、、というところもボルドー左岸。

  ボルドーに来る度に手こずるのが、ボルドーの広さとホテル探し、そして交通事情。左岸では特にそれを痛感する。ボルドー市内に部屋を取ると、例えばポイヤックに車で行くには1時間。しかしこれはあくまでも道路状況が良かった場合の話。ボルドー市内や近郊は一方通行や迂回、それらによる渋滞の連続で、市外に出られるまでの時間が読めない。道路事情を知り尽くした地元民か、運転・方向感覚に優れた人でないと、ボルドーでの運転は難しい。

 今回は朝9時にサンテステフより更に10キロ強北のシャトーとアポイントがあったが、渋滞を避けた出発時間は7時。外はまだ真っ暗だ。ならば市外に部屋を取れば良いじゃないかと言われそうだが、市外のホテルは格安のチェーン系ホテル(30ユーロ前後)か、高級ホテル(100ユーロ以上)と真っ二つに別れる。格安のホテルは大抵味気ない場所にあって、安くても美味しい夕ご飯を食べられる店が周辺に無い(会話の全く無いマクドナルドやピザ、なんちゃって中華が続くと、単独の取材旅行では寂しさばかりが募って、明日への活力が沸かないのだ)。かと言って高級ホテルで夜な夜な食事を取るような余裕は経済的にも精神的にも無い。まぁ私が車を運転できないことが最も問題なのだけれど。もしくはブルゴーニュのように気の利いたシャンブル・ドット(朝ご飯付きの民宿)が点在してれば良いのだが、冬期閉鎖だったり、宿自体が永久閉鎖だったり、これまた思うようにはいかない。ボルドーはナパ・ヴァレーのようなエノ・トゥーリズム(ワイン産業と観光の一体化)を目指していると聞くので、交通・宿事事情ともに、もう少しあらゆるタイプの旅人に対応できるようになってほしい。

 

トラム君

 さて、表題の「トラム君」。路面電車に余り馴染みがない私から見ると、なんとなく君付けしたくなる物珍しさがある。また私がプリムールのために定期的にボルドーに通い始めた2004年春は、トラム君運行に向け至る所で主要道路が掘り返されていて、正直「美しくない街だなぁ」と思い、その運行も予定より遅れたと聞く。だから現在元気に走っているトラム君を見ると、「良かったねぇ、この日を迎えて」という気持ちになる。

 そもそもトラム君がボルドーで採用されたのは、ボルドーほどの規模の都市で公共の移動手段がバスしか無かったため、渋滞の緩和と、通勤者の足を車から公共の乗り物に変える目的だったらしい。だがどう見ても、ボルドーは今でも毎日が超・渋滞。スッキリしていているのはトラム君の周りだけである。恐らく通勤の手段を車からトラム君に変えた人はかなりいるはずで、またトラム君以前からバスを愛用していた市民にとっては路線が増えて便利になっただろう。でも車派にとってのトラム君は余り嬉しくない存在なのかもしれない。特にタクシーにとっては、トラム君は営業妨害(?)である。

〜 タクシー運転手のボヤキ 〜

 ボルドーではタクシー、バス、トラム君で移動しているが、大抵のタクシー運転手はトラム君が目の前で主要道路を塞ぎ、信号待ちが始まったあたりでボヤキ始める。

「あ〜、またトラム、、、。それでなくても渋滞が酷かったのに、トラムが通ると完全にお手上げだ。あとは迂回、また迂回、、、」

「昔はボルドー駅前で待機してりゃ、シーズンオフでも市の中心部に行く客がばんばん来て、そのまま市内を流していたら、次の客がつかまった。でも今じゃみんなトラムを使う。タクシーの数?減ったんじゃないの?だって客が減ったんだから」

「渋滞?前より酷いよ。もう仕方ないね」

散々である。渋滞はさておき、旅行者として困るのはタクシーが以前より見つけにくくなったこと。街の中心街のタクシー乗り場で50分待ったこともあれば(50分で来たのはたった1台!)、やっと遠くの方で流しのタクシーを見つけ手を振っても、「そっち側には行けないから」というジェスチャーをされて終わり。結局無駄な待ち時間とイライラを避けるために、タクシーが必要な時は必ず予約するようにしているが、運転する側も乗る側も、かなりの忍耐を要するのがボルドーのタクシー事情と言える(もっとも乗ってしまえば、パリより親切な運転手さんが多いのが救い)。

〜 歩行者とトラム君 〜

 トラム君優先道路は、トラム君が通らない限り歩行者は自由に横断できる。だが結構音も無く忍び寄ってくるのがトラム君(カーヴなどでは定期的に警笛を鳴らしており、もちろん無人運転でもない)。はっと横を見ると、かなり至近距離にトラム君がいたことが何度かある。トラム君運行当初には人身事故が結構あったらしい。確かにレールにヒールでも引っかけて転んだ時には、静かに迫り来るトラム君を避けようがない。ボルドー市民はすっかりこのトラム君の静けさにも慣れたように見えるが、風景に気を取られやすい旅行者などが(私がその典型だ)、注意を払った方が良いのもトラム君なのだ。

 

 ともあれ、トラム君。「ボルドーの交通事情を改善した!」と賞賛されるには、もう少し時間がかかりそう?

 

サンタンドレ大聖堂横を悠々と走るトラム君 刻々と変わる街の風景を、おそらく100年以上見ている達観したオジサンの像

 

オマケ

 ボルドーが世界遺産に認定されたのが今年6月。当時書いた文章がそのままだったので、ここに追加(認定にはトラム君も一役買っている?)。

〜 ボルドー港が世界遺産に登録 〜

 6/28、クライストチャーチ(ニュージーランド)で開催されたユネスコ世界遺産委員会で、「月の港」(ボルドー港)が世界遺産として登録された。ボルドー市ではアラン・ジュペ市長の下、1996年から市の景観保護(ガロンヌ川岸整備、歴的建造物の保護など)と近代化(トラムの設置など)が進められてきた。今回は18世紀から残る建造物と都市開発の調和による景観が評価された。またその結果、認定された区画は歴史的街区のみならず、1960年代に開発された人工地盤であるメリアデック地区(ビジネス街)まで含まれ、総面積は市の行政域の半分にあたる1810ヘクタールに及んでいる。