GCCニュース 2004/04/13

 〜ブラヴォ! ペトリュス 1955〜

à Restaurant GRANNY(Paris 7区)

                                                         

 近頃「古酒」づいている、GCCである。そしてとうとう、このワインが登場した。ペトリュス 1955である。

 

ペトリュス 1955

 

空き瓶になってからなので、液面は分かりませんが、、、。

 既に有名すぎるこのワインに私が補足する事は何もないが、1950年代はまだムエックス社の所有ではなく(マダム・エドモン・ルバの管轄であった)、当時はシャトー元詰め以外と並行して、ネゴシアンにもワインを販売していたようだ。よってこの時代は各ネゴシアンのラベルと、シャトー元詰めラベルが混在するが、今回の試飲ボトルは元詰めラベルである。

 購入場所はフランス国内のあるオークションにて。リコルク無しのボトルは液面も首下ちょうどという、ごく良好な状態であった。

 

 ところで1955年とは、いかなるミレジムだったのか?

 手元にペトリュス、あるいはポムロールに限定して書かれた資料が無いので、ボルドーという括りで見ると(参考資料:パーカー 「ボルドー第3版」より抜粋)、

 

規模:収穫量は多く、健康的であった。

重要な情報:1953年や1959年とは比較にならないが、過小評価されている年。栄えある1953年よりもしっかりとして、がっしりとしたつくり。最近の年では1988年が、1955年の再来。

飲み頃:眠りの期間が長かったが、最高のワインはようやく飲み頃になったようで、飲み頃を過ぎる気配はない。

気象条件:一般に理想的だった。6〜8月は暑く、日がよく照った。9月に少し雨が降ったが、その影響は消極的なものではなく、むしろ積極的なものだった(収穫開始日 9月21日)。

 

 となっており、ポムロールのベスト・ワインとして、当然ながらペトリュスも挙げられている。要するに「隠れミレジム」なのである。

 

格を、探せ!

 

 GCCでのワイン会は、例外もあるが常にブラインド・テイスティングである。しかしお題は「ペトリュス」だ。飲んだ事が無い以前にこの日初めて現物を目にした参加者もいる中で(私自身、最後のペトリュスはいつだったのか思い出せないほどに機会が少ない)、「どれがペトリュスか」を当てずっぽで判断しても意味が無い。ましてや古酒、である。古酒の世界は、時に産地や品種を軽々と飛び越えてしまうのだ。私自身、ピノ・ノワールのような官能を持っている熟成しきったメルローを、何度コート・ド・ニュイと間違えた事だろう?そしてもし前日に近年のペトリュスを10種類くらい試飲したとしても、1955がどのような姿になっているかは、全く想像がつかない。

 そこでせめて探したいのは、ワインとしての「格」である。帝王と称されるワインなら、万人の心を揺さぶる「何か」、そして圧倒的な「格」を是非、持って欲しい。

 果たして1955は時を超えて、帝王の格を参加者に見せつけてくれるのか?

 

ちなみにこの日、ペトリュスと共にブラインド・テイスティングとして出されたのは、以下。

     シャトー・クリネ 1994

     シャトー・ラ・ガフリエール・ノード 1959

     シャトー・コス・デストゥネル 1988

 

 一見非常にペトリュスを見つけやすい比較に見えるが、全く銘柄が知らされていない全てのワインの中で(知らされているのは、「ペトリュス 1955がある」、ということのみ)それぞれのワインをどう感じるのか、そして「右岸と左岸の違いを見極める」というお題も含まれている。

 

テイスティング・コメント

 

 結論から言うと、参加者全員がペトリュスを迷い無く「別格のもの」と感じたのであるが、格と同様に参加者が驚愕したのは、「1955」という前情報が邪魔になるほどに、ペトリュスが若々しかったということだ。

 まだねっとりとした黒い果実味を十分に兼ね備え、奥から湧き上がる黒トリュフの豊かな層、層、層!グラスから湧き上がる官能的な香りに腰が砕け、思わず声が漏れる。

 そして恐ろしく細かなタンニンは、種まで熟した素晴らしいブドウからしか絶対に得られない類のもので、それがショコラのような甘味を持って、まさに「究極に滑らかな液体」。しかし凛とした芯もあって、余韻の長さゆえに一口を余韻まで飲み終わろうとすると非常に時間がかかる。

 ああ満足な溜息、である。ブラヴォ!だ。恐らく保存状態さえ良ければ、10年後、いやそれ以上でも全く問題は無いのではないか。なんと言ってもまだ果実味の魅力がふんだんにあるのである。そしてどのように枯れていくのだろうか?この「枯れ」の段階まで追いかけていこうと思えば、20年を要する仕事、という気すらする。

 

 最近少々、古酒を飲む機会に恵まれているのだが、1950年、1960年代といったワインを飲む時に、最近の造りのワインに果たしてこの熟成能力があるのか、ということを考える。思えばこの時代は戦争を経ていよいよワイン造りも安定してきた頃だ。そして除草剤なども浸透していなかったのだから(除草剤の普及は1960年代で、それはあっという間に広がった)、否が応でも有機的アプローチに近かったはずである。加えて特にボルドーなどには、「孫の代まで飲めるワインを造りたい」とでも言わんばかりの醸造におけるスタンスを、その骨格に感じるのだ。

 「ワインにはその時代が求める味わいが反映されている」とは、トゥール・ダルジャンのカヴィスト、林氏の言葉であるが、「過去の頑ななまでに造られたワイン」がようやく開きつつある姿と、近年の「若い頃も、それはそれで楽しめる」ワインを同時に楽しめる私達は、案外ラッキーなのかもしれない。もっとも私自身が2000年のボルドーのグラン・ヴァンを、50年後に確かめられる保証は寿命的に(?)低そうなので、それは残念なのではあるが、、、。

 

GCC近況報告

 

 そろそろ夏の「GCC 夏の日本ツアー(?)」の到来である。現在多忙を極める須藤氏からの、詳細の決定発表はもう少し後になりそうであるが、今年の試飲会には古酒もかなり盛り込まれる予定である。

 古酒の扱い・飲み方は当然ながら難しく、最近のパリでの古酒バージョンは、いわば「古酒・研究編」。須藤氏曰く、

「格好良く言えば、エル・ブジがラボに籠もって料理を開発し、その結果をレストランでお披露目するようなもの。今年の古酒バージョンは、パリの研究成果です!是非、ご参加を」。

 

 またパリでも、週に1回ペースでワイン会を続行中。フランスにいらっしゃる方でご興味のある方は、お気軽に当HPまでご連絡ください。お待ちしています!

 

最後に

 

 今回この「ペトリュス 1955」を提供してくださったのは、パリの「AAAフランス語学高等学院」の輿石校長先生である。この場を借りて先生に、心からの御礼を申し上げます。