GCCニュース 6月その2

「GCC」ってパリでは、何しているの?
〜5大シャトーの2002年を利く〜




 

 

 GCCの主催者・須藤氏が試飲会を行う時、その嘆きは2つある。

 一つ目は、やはり「有名なワイン」が無ければ参加者が著しく減ってしまうこと(まだ見知らぬ生産者の発見もGCCの楽しみなのだ)。そして二つ目は日本で試飲会をした時に、どうもボルドーに人気が低いことである。

 ここで、日本のボルドーとは?を考える。誤解を覚悟で乱暴に言うと、ボルドーワインとは、ブームの根底を成す(共感を促す)「庶民性」にまず欠けており、一方、その膨大かつ安定した生産量と品質をブルゴーニュや他産地と比べた時、ブルゴーニュの一つのアペラシオンが丸ごと入らんばかりの一つのシャトーの大きさは、希少性や純粋性(テロワールや、生産者の意志の明確さ)を求める愛好家心を、ほんの少し削ぐ。加えて価格の高さも好景気やブームの追い風があれば、良くも悪くも人気に繋がるが、現状はそうでもない。そしてボルドーの古き良き伝統は「孫のために残せるワインを造ること」。長熟タイプのワインを若い(まだ完全に閉じきっている)時に味わって、将来性を楽しみにする、というのは非常にストイックな飲み方にも思える。要するに、許される予算があってワインやワイン会を選ばなければならない時に、ボルドーは「次の機会が訪れるのではないか」という安心感を生むと同時に、切迫感(?)に足りない。正直に言えば私自身もボルドーには距離があって、私の場合その理由は、ワインに本当に携わっている人の顔が見えにくいということだろうか。 

 しかしパリでのGCCの試飲会では、参加者はほとんどが日本人でありながら、ボルドー人気は結構高い。それがなぜなのかは分からないが、特に在仏歴が長ければボルドーへ感じる価値や魅力というのは、ボルドーの安定した品質同様、より確立したものなのかもしれない。そして去る4月に行われた試飲会は王道中の王道、「5大シャトーの2002年を利く」であった。もちろんいつもの通りに、試飲は全てブラインドである。折しも参加者にはボルドー・プリムール帰りのラファエルもおり(私もそうだ)、「シャトー・マルゴー 2003」に悩まされた後だけに(参照:ボルドー・プリムール報告 その2)、テイスター生命をかけて(?)試飲に臨んだのであるが、果たしてその結果は?

 


全て抜栓時間は午前9時(試飲開始は午後8時)。試飲直前にデキャンティング。

 

(ワイン その1)

ポイヤックらしいクッキリとしたミ・ド・クレヨン(鉛筆の芯に似た香り)や、濃いミルクや樽由来の上品なカフェニュアンス。複雑な黒い果実や、黒に近いバラ、黒トリュフに変わりそうな予感の香り。

「甘・旨・細か」が揃い、乾きや青さが全く無いタンニンは、生理学的に熟した上質なブドウや樽とのバランスの良さを十分に感じさせ、ミネラルを伴った酸が奥に潜む様子も素晴らしい。そして惚れ惚れする余韻の長さ。

筆者の予想→シャトー・ラトゥール

正解:シャトー・ムートン・ロートシルト

 

(ワイン その2)

焦がしたカフェやなぜか麦チョコ(ご存知だろうか)、少しタイヤが焦げたニュアンス、黒く熟した果実、牡丹や黒に近いチューリップ、目立たないが青いハーヴ。

タンニンは細かく、軽やかで、酸のレベルの高さが顕著。5本の中で、最も異なる性格を持つ。

筆者の予想→シャトー・オー・ブリオン

正解:シャトー・マルゴー

 

(ワイン その3)

ピンク〜赤いバラ、赤〜黒の果実。微かな杉。黒トリュフやポルチーニなど高貴なキノコに変わりそうな予感の香りは、官能的でもある。

タンニンの細かさ、鉱物そのもののようなカッチリとしたミネラルと酸、旨味を伴った辛み。繊細さと豊かさを併せ持ち、しかし良い意味で重さが無い。余韻も細長く伸びる。

筆者の予想→シャトー・マルゴー

正解:シャトー・オー・ブリオン

 

(ワイン その4)

(ワイン その1)と比べて、より硬質なミ・ド・クレヨンと、ヨード感。ミネラル、ミネラル、ミネラル、そしてミルクや、黒トリュフの予感、バラやスミレといったフローラルな要素の複雑さ。それらの香りが開いては閉じ、そして次には真っ直ぐと立ち上る。

タンニンのエレガントさ、ねっとりとした密度、それを重く感じさせないミネラルと酸。試飲の途中に気を抜ける瞬間が全く無く、余韻も非常に長い。最もポテンシャルを感じ、ワインとしても好きな繊細なスタイルであった。

筆者の予想→シャトー・ラフィット・ロートシルト

正解:シャトー・ラフィット・ロートシルト

 

(ワイン その5)

圧倒的な黒い果実味と、ポイヤックらしいミ・ド・クレヨン、カプチーノ、丁字、挽いていない黒コショウ、しっとりとした森のニュアンス。

熟したタンニンに裏打ちされた甘さ・豊かさ・丸み、酸、アルコールのバランスの良さ。余韻も力強く伸びる。

筆者の予想→シャトー・ムートン・ロートシルト

正解:シャトー・ラトゥール

 

 

 ブラインド・テイスティングは「当てもの」ではないが、「名前で飲まない」「試飲に集中する」という観点では良いと思う。そして上記の通り、今回私の正解は5シャトー中1シャトーという惨憺たる結果であったが、ワインは常にイメージ通りではない、ということを毎回ながら知ることができて良かったと思うのだ。まぁ、要するに「飲まなきゃ、分からない」ということであるが。

 ところでこのHPを読んで頂いている方の中にも、プリムールで2002年の5大シャトーを購入された方もいるかもしれない。2002年のプリムール価格は、2000年ミレジムの価格高騰の反省が見事に反映されていて、5大シャトーと言えども既にお値打ち感があるのだが、個人的にはムートンを購入されていた方は、本当に幸運だと思う。そのムートンらしからぬ(?)品格と威厳ゆえ、私はラトゥールとムートンを逆に推測したのだ。逆にマルゴーは少々ネガティヴな意味で「らしくない」(瓶差もあるだろうから、1回の試飲で断言はできない。しかし2002年のプリムールにも参加していたラファエルは、この結果を予測していた)。

 ともあれ高嶺の花である、5大シャトー。「飲み比べ」といった贅沢なことが出来るのは、ワイン会の醍醐味でもある。