GCC 大阪ツアー
「パカレ再び! 2003年水平」報告

 

 

 

  私自身は一連のパカレを同時に試飲したのは、カーヴでのみ。瓶詰め後のパカレを、9種類も一度に比べるのは初めてである。カーヴでの経験や、フランスでのテロワール(土地と天候、人の個性)を重視してきた試飲は、このブラインド・テイスティングで生かされるのであろうか?

 まずは、今回のワインリストである(ミレジムは全て2003年)。

 

ムルソー 

コルトン・シャルルマーニュ 

 

村名の比較

ジュヴレイ・シャンベルタン

シャンボール・ミュジニィ 

ポマール

 

一級の比較

@ ジュヴレイ・シャンベルタン プルミエ・クリュ ラ・ペリエール

A シャンボール・ミュジニィ プルミエ・クリュ 

B ボーヌ プルミエ・クリュ レ・シュアシュー

C     ポマール プルミエ・クリュ レ・シャンラン

(@〜Cに関するインフォメーションは、後記)

 

 前回(2005年6月)、大阪でパカレの比較試飲をした時には(私は不在)、なんとアリゴテとコルトン・シャルルマーニュを出席者の多くが間違える、というハプニング(?)が起きたらしいが、今回、特に2度目の出席者は、ムルソーとコルトン・シャルルマーニュの違いをハッキリと認識。パカレ自身が「コルトン・シャルルマーニュは、ミネラル」と言うように、現時点ではとりつく島もないように思える硬質なミネラルが熟成能力を物語る。果実や花のアロマも控えめなようで伸びや深さがあり、余韻の長さもやはりムルソーを上回る。

 主催者須藤氏の言う「パカレだけでなく、若い時の比較は『無口に思える方』が高価なワイン(熟成能力を秘めたワイン)と考えてOK」というセオリーが生きた形となったが、ここに一言付け加えるなら、高価なワインも決して無口ではない(特に余韻の「長さ」に注目すると、むしろ雄弁である)。ただしグラスに注いでから話し出すまでに「時間がかかる」と言うべきか。丁寧にスワリングを繰り返すと、チラリチラリと格に相応しい要素を見せてくれる。非常に下品な書き方をすれば、大物はすぐには脱ぎはせず、時間(微酸化)という根気を要する駆け引きがより必要なのだ。

 そこで前回のアリゴテは、アリゴテとしての完成度の高さもあるだろうが、とにかくその表情の豊かさが、コルトン・シャルルマーニュの印象を薄めてしまったのではないだろうか?

 

 しかし今回、参加者の間で混迷を極めたのはむしろ「一級の比較試飲」だった。

 ワインの格が確実に上がったことは誰の味覚にも明らかで、各ワインには異なる個性が既に備わっている。しかし暑苦しい2003年とは一線を画したエレガンスが、「これもアリかも」感を飲めば飲むほど醸しだし、私が試飲前に簡単に説明した各畑のインフォメーションも、テロワールに通じた人にとっては更に様々な可能性を考え込ませてしまったのかもしれない。

 そのインフォメーションは以下である(平均値。2003年の収量は、酷暑だったためにこれより低いと思われる)。

 

@

生産本数: 1200本

畑の位置と土壌: マジ・シャンベルタンの下、粘土石灰土壌(非常に小石が多い)

畑の向き: 南東

平均樹齢: 45年

植樹密度: 11000本

平均収量: 31hl/ha

 

A

生産本数: 1350本

畑の位置と土壌: レザムールズとコンボットの混醸、粘土石灰土壌(非常に小石が多い)

畑の向き: 南東

平均樹齢: 50年

植樹密度: 11000本

平均収量: 25hl/ha

 

B

生産本数: 1200本

畑の位置と土壌: クロ・デ・ムーシュよりレ・ヴィーニュ・ブランシュを挟んで下、粘土石灰と褐色粘土

畑の向き: 南

平均樹齢: 45年

植樹密度: 10000本

平均収量: 32hl/ha

 

C

生産本数: 900本

畑の位置と土壌: ヴォルネイの隣、粘土石灰(粘土が非常に少ない)

畑の向き: 南(急斜面)

平均樹齢: 55年

植樹密度: 12000本

平均収量: 32hl/ha

 

 私自身は、ポマールとシャンボールを反対に推測した。実は村名でも反対に考え、以前パリでもこの二つを反対に言ったことがある。学習能力が無い、と言われればそれまでで、しかもパカレのカーヴでは「よりアエリエン(空気のようにたおやか)」に感じたのがシャンボール・ミュジニィだったので、情けない。

 しかし言い訳が許されるなら、それだけパカレのポマールが一般的なポマールのイメージからは遠い、エレガンスがあるということで、カーヴでの試飲で感じた「とっつきやすさ」はなりを潜めていた。ヴォルネイの隣で粘土も少ない、となれば確かに軽やかなポマールになるはずなのだが、それにしてもポマールを、こういう風に表現できる生産者は少ないのではないだろうか。天晴れ、パカレ節である。ちなみに両ワインに対する私のテイスティング・メモは、

 

シャンボール・ミュジニィ プルミエ・クリュ

ピンクの小バラや、梅やシソに通じる酸の高さ。ミルクのような甘味を感じるタンニン。旨味の層の複雑性。軽やかに長い余韻。

 

ポマール プルミエ・クリュ レ・シャンラン

複雑なアロマは、何か「これ」と簡単に例えられないが、特にヴォーヌ・ロマネに通じるバラや、少しのスミレが美しい。ねっとりと緻密なタンニンは官能的。非常に長い余韻。とにかく複雑性と官能が印象に残るワイン。

 

 2つのコメントを後になって振り返ると、なぜ反対に言ったのかが不思議な気もする。だが「ヴォーヌ・ロマネっぽい」とポマールを感じた時点で、おそらく推測の修正不可能になったようだ。ともあれパカレのポマール、機会があれば是非じっくりと飲んで頂きたいワインだ。

 そしてインフォメーションを見て頂いても分かるように、パカレのワインは総じて平均樹齢が高い。2004年以降、リュショット・シャンベルタンを含む6種類のアペラシオンが新たにラインナップに加わったが、既にリリースされているワインも含めて樹齢は全て40年を超える(ただしアリゴテのインフォメーションのみ手元に無し)。コルトン・シャルルマーニュに至っては60年であり、要するにパカレのワインは全て「VV」と表示しても良い。ビオが話題に昇ることの多いパカレだが、この樹齢の高さも隠れたパカレの強みだろう。

 

 最後に。大阪ワイン会を支える金本さんが言う、

― 同じ村で、畑毎にワインをじっくりと比べてみたい。

私も大いに賛成で、素晴らしい生産者たちが心を砕くのも、「各畑の個性を引き出すこと」なのだ。今回のパカレも最終的にはアペラシオン以上に畑の個性を感じ、多くの生産者たちのカーヴでこれらを比較する時も、同じ村の一級、もしくは特級というカテゴリー的には同等のものが異なる顔を覗かせる。畑の位置や土壌、向きはとても暗記できるものではないが、地図を見、説明を聞きながら利くと、味覚を通して「畑の違い」は説得性を増すものだ。ただし地味とも言える「畑比較」ではなかなか参加者が集まらないのが、頭の痛いところだったりする。

 

 パカレの言葉を借りれば「ワインは頭で飲むものではない」(大好きな言葉だ)。でもブラインド・テイスティングを含め、たまにはじっくり利く時間を作ると、いい加減に飲んでいる時にでもふと、ブドウ畑の風景が見えてきたり、「きっと凄く丁寧に世話をされたブドウなんだろうなぁ」という想像力(?)は身に付く。そして私自身は、この想像力はやっぱりワインを楽しくさせてくれるものだと思っている。