〜2004年 ブルゴーニュの収穫風景〜
ドメーヌ・クロード・デュガにて その1
「今年のブルゴーニュとは?」

(Gevrey−Chambertin 2004.9.25〜9.30)

 

今回、「2004年 ブルゴーニュの収穫風景 ドメーヌ・クロード・デュガにて その1」では、「今年のブルゴーニュとは?」を中心に、最近の選果事情などをふまえて、レポートしたい

収穫日の開始

  ドメーヌ・クロード・デュガでの2004年の収穫が始まったのは9月25日、例年並か、若干遅い目の開始である。その前日はコート・ド・ニュイのアペラシオンの収穫公示日であり、ドゥニ・モルテなど幾つかの生産者の収穫風景がデュガよりも1日早く、ジュヴレイ・シャンベルタンの所々で見ることが出来た。

今年のブルゴーニュの問題点

 先日の裏話でも述べたが、2004年、初夏以降のブルゴーニュの畑は被害規模の大小はあるものの、「ウドンコ病」「ベト病」、そして白ブドウには「灰色カビ病」も頻繁に見られ、生産者達は病害対策に迅速に対応しなければいけなかったようだ。加えて雹害も局所的に頻発、雨が降り涼しかった8月と続き、9月上旬の「インディアン・サマー」が無ければ、被害を免れたブドウでも最低限の糖度を得るのは難しかっただろう。

今回話を伺った生産者達の話をまとめると「2004年は例えどんなに評価の高いドメーヌでも、何らかの被害があった」。最終的に「健全な」ブドウをいかに確保できたか(いかに厳しい選果を行ったか)が、品質の決め手となるようだ。 

 ところで前述の病害をごく簡単に説明すると、

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ウドンコ病:新梢、葉、果実を冒す。5〜7月に発生。白い粉で覆われた様になり、葉は黄白色化して落葉、果実の表皮の成熟を妨げる(裂果を引き起こす)。

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 ベト病:高温多湿地や、降雨量の多いミレジムに多い病害。果実に斑点が現れ、続いてべたついたカビが発生する。

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灰色カビ病:白ブドウの未熟果を冒し、品質(好ましくない風味をもたらす)・量ともに影響する。

ラ・マリーの区画にて。これでも十分に綺麗なブドウだが、ミランダージュを起こしたブドウは、より極端に小振りである

 つまり「ウドンコ病に冒される」ことは房だけでなく、「葉もやられる」ことがまずは深刻な問題だ。なぜなら果実の成長・成熟期を支える光合成が妨げられ、西日側の落葉が多いと房の「日焼け」を引き起こすからだ。また今年のベト病は長期間に渡って蔓延、そして雹害も葉を襲った時には光合成の面で、果実を襲った時(特に糖度が上がったブドウの場合)には、裂果した粒からの果汁が房の腐敗を招く。
 そこに2004年の場合は、乾燥気味だった初夏の後に8月の雨があり、病害を免れていたブドウでも急激に水を吸うことで、やはり裂果を招くこともあったようである。よって
生産者によって取った手段は様々ながらも、病害の葉を取り除きつつ光合成を維持し、腐敗果を防ぐためには風通しの良い仕立てがきちんと施されていなければならなかった。
 雹害は現実的に防ぎようがないものの、病害は早期予防・発見が重要で、いつも以上に畑での日々の観察がものを言うミレジムであったことは間違いない。
 

では、ドメーヌ・クロード・デュガである。
やはり夏期、一部の区画ではウドンコ病が発生、また3回に渡って局所的な雹害が遭ったので、そういった区画での光合成の維持が重要であった。最終的に収穫量は例年よりやや少なめであり、品質はクロード曰く「ごく、平均」。
  だが私が収穫に足を踏み入れた畑は、確かに葉がウドンコ病により、この季節にはまだ早く黄色化しているものもあったが(もっともこの風景は、今年のブルゴーニュでは普通である)、黒々と小振りな第1世代目のブドウのみが針金の最も下の位置に、つつましく並んでいた。品質を求める生産者には歓迎される「ミランダージュ(花震いにより結実不良を起こしたブドウで非常に小振り。果皮と果肉の接触面が多く、凝縮した糖度・アロマを持つ)」を起こしたブドウもチラホラとある。夏期の苦労は直接見えないものの、こうしたブドウを得るためには並大抵ではない仕事があったのだと思う。

畑横の選果台

 今年のミレジムの決め手の一つは、とにかく選果。

しかし今年のようなミレジムでなくても、デュガの選果は厳しい。そう、デュガ家や熱心な生産者の「本当の選果」は1月の「剪定」から始まっており、その後の芽掻き、ヴァンダンジュ・ヴェルト(ヴァンダンジュ・ヴェルトに関しては、生産者によって意見が割れるが)、作業中や収穫時の簡単な選り分けと続き、選果台というのは彼らにとって、「選果の最終仕上げ」と言って良いだろう。そしてヴァンダンジュ・ヴェルトと同様、選果台の登場はブルゴーニュの歴史の中では案外遅く、ジュヴレイ・シャンベルタンで先鋒を切ったデュガでも約10年前からである(ちなみにかのアンリ・ジャイエですら、1980年代後半の採用)。
 そのデュガ家が今年試みたのが、「畑横の選果台」、つまり
畑の真横に選果台一式を持ち込み(この選果台はベルトコンベアー式なので、モーターごとの移動だ!)、収穫人が摘んだブドウは即座に「その場で」選果されたのだ。クロード曰く、「カーヴにブドウが着いた時に、出来の悪い果汁が混じるのを防ぐための試み」らしく、これは今年の選果の重要性も考慮してのことだろうが、むしろ来年への布石の意味の方が大きいようだ。
 というのも、数年前、ワイナートの「サンテミリオン特集」で紹介されたような究極の(?)選果台、コンベア部分が微振動で動き、粒単位で選果できるようなものは、ブルゴーニュの偉大といわれるドメーヌでも全く一般的ではなく、例えば約80のワイン生産者がいるジュヴレイ・シャンベルタンでも、5人もいない(シャルロパンやアラン・ビュルゲ、ジャンテ・パンシオが採用)。クロードも、早ければ来年にでもこの「微振動」タイプの採用を考えており、今年も収穫後半の2日は、醸造器具会社から「微振動タイプ」をレンタルしてまずはその有効性を確かめていた。だが「微振動」タイプ以前に、よりワインに効果をもたらす方法があるかもしれない。その方法の模索として、「畑横での選果」もあったのである。
 

 ところで「ブドウを潰さないこと」や「選果」が、本当にワインの味わいに影響をもたらすとすれば、最高に丁寧な収穫と運搬とは、

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熟練の収穫人による、まずは畑での選果

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畑の横で、「微振動」タイプで即選果

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選果されたブドウが押し潰されないように、ブドウが二段に重ならない超小カゴ(日本の進物用果物の箱のようなものである)で運搬

となるのかもしれない。実際に私が見る限り、運搬に用いるカゴも、少しずつこじんまりとしつつあるように思われる。そしてジュヴレイで最も丁寧な収穫・運搬をしているのは恐らくベルナール・デュガ・ピィで、畑に流れる雰囲気がまず違う。ヘンなブドウをカゴに入れることを繰り返せば、真っ先にベルナールから解雇を言い渡されそうだ(?)。そして桃を運ぶような小カゴに丁寧に入れられたブドウは、そのまま保冷車に摘まれ、そして醸造所へ。だがこのような手段を持たなかった過去のワインに素晴らしいものがある事実を考えると、これは畑仕事における「最後の数パーセント」のこだわりなのだろう。
  実際に愛好家から崇められている(?)ようなドメーヌでも、収穫風景とは基本的に華やいだ大らかさがあって、各生産者によって収穫人に指示すべきポイントはあっても、そんなに神経を研ぎ澄ました作業が繰り広げられているわけではない。要するに「摘まれるまで、どう育てたか」に殆どの重点があり、ブドウ収穫から不完全さを取り去ったからと言って、そこに収穫人までをも含む「人」が関わっている限り、「完璧」を全ての生産者が良い結果に導けるとは限らないだろう、そんな気もする(もっともこれは収穫時期特有の大らかさが好きな、ドシロートの私の勝手な見解であり、それだけでは満足できない生産者がいるから、収穫風景も時と共に変わっていくのだ)。
 

 さて、クロードは「畑横での選果」に、いかなる結果を見出すのだろう。これはまたドメーヌに通い詰めながら、じっくりと聞くことになりそうだ。 

 ちなみに既に「微振動」タイプを採用している、ブルーノ・クラヴリエ氏(ヴォーヌ・ロマネ)によると、「微振動」タイプのメリットは、主に以下らしい。

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ブドウが最初に選果台に乗る箇所に「溝」状の構造が続くので、ここでまずは余計な果汁や乾燥果が、勝手に落ちる(つまりこの後に続く「人の目と手による」選果を加えると、「一台で二度の選果」となる)。

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微振動により、ブドウ房一つ一つが規則正しくばらけながら目の前を流れていくので、ブドウの品質を見極めやすい。また房から外れた粒も、文字通り「一粒ずつ」回転しながら流れるので、粒単位の選果が可能。

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微振動タイプは選果台部分が長いのも特徴で、約10人が同時に選果に従事できる。

 私もデュガで、「お試し・微振動タイプ」選果台をまずは、経験。これは正直、見やす過ぎ!であった。視力の悪い人が眼鏡を初めてかけたような(?)感動がある。しかし人によっては、プルプルと揺れるブドウを常に見続けることが「気分の悪さ」を繋がるようで(船酔いならぬ、選果台酔い?)、なかなか辛い作業になってしまうようだ。

「微振動タイプ」の選果台にて。ブドウがぼやけているのは私の手ぶれではありません!

  次回、「2004年 ブルゴーニュの収穫風景 ドメーヌ・クロード・デュガにて その2」では、収穫風景の日常を、日記形式でレポートしたいと思う。