番外編 PAULĖE de MEURSAULT (Meursault 2003.11.17) |
ポーレ・ド・ムルソー。まさにブルゴーニュの「栄光の3日間(Les TROIS GLORIEUSES)」のトリを飾るのに相応しいパーティだ。なぜなら限られた人達が参加するこのパーティには、ブルゴーニュに引き継がれる地元の親密さと、その年の収穫・醸造を終えた生産者達の爆発的かつ開放的な喜びがぎっしりと詰まっているからである。
ポーレの成り立ちは昨年のレポートで既に述べているので(11/18 番外編 PAULĖE de MEURSAULT 〜「栄光の3日間」のパーティ 〜参照)、今年のレポートでは会場の雰囲気をダイレクトに楽しんでいただきたい!
ところでポーレの華である文学賞には、今年はケベック在住のフランス人、ドニーズ・ボンバルディエ女史(Mme.Denise BOMBARDIER)が選ばれ、彼女のウィット溢れるスピーチにも会場は笑いと拍手の渦であった。
祭りの前の静けさ?ポーレに相応しい、澄み切った初冬の空気。 |
今年の作家賞を受賞されたドニーズ・ボンバルディエ女史のスピーチ。雄弁な彼女に会場は笑いの渦。 |
生産者達の輝く笑顔 |
雑誌で見る生産者達は時に厳かで、実際に彼らを訪問しても仕事に関して語る彼らの表情は当然ながら真剣である。しかし年に一度のポーレで見かける彼らは、まさにラテン。セラーや畑で見かける仕事着から一転、昼食会らしい程よい正装に身を包んだ彼らの笑顔に出会えるのもポーレならではでの楽しさだ。
彼らのそんな一面を、写真で少しご紹介!
ほろ酔い加減のドミニク・ラフォン氏はかなりセクシーな(?)ムッシュである。 | ピエール・グージュ氏(ドメーヌ・アンリ・グージュ)。物静かな紳士。 |
ジャン・フランソワ・コシュ氏自らワインを注いで廻る。 |
ドメーヌ・ジェルマンのブノワさんと奥様(下)、とお茶目なミクルスキ氏。 |
いつも自信に満ち溢れたヴァンサン・ジラルダン氏。 |
樽会社のトップに立つ、フランソワ・フレールの社長。 |
会場の入り口にある、席順表。今年は誰の隣りかも、お楽しみの一つ。 |
気になるポーレのメニュウ |
今年71回目を迎えるポーレは、1923年、美食家であったジュール・ラフォン伯爵(ドメーヌ・デ・コント・ラフォンの初代。晩年にはムルソー村の村長も務めた)によって、現在の形の基が築かれた。よって「美食と美酒を楽しむ」こともポーレの主旨の一つである。
最初の皿がサーヴィスされる前には御輿(みこし)のように食材を盛った台を掲げた2人のシェフと、その後ろには料理スタッフやサーヴィスの人達が各テーブル間をねり歩く。そしてパーティが終わる時には彼ら全員が壇上に上がり挨拶をするのだが、その彼らに会場から惜しみない絶賛の拍手が送られるのは言うまでもない。
ちなみに今年のメニュウは以下である。
Fois Gras de Canard Cuit au Trochon et Figue Frâiche
Chutney de Poire et Ananas
Brochette de Noix de Saint−Jaques et son Flan de Tourteau
Emuusion de Ratafia au Zeste de Citron
Tournedos de Filet de Veau et Ris de Veau Juste Poêlé
Jus Simple aux Sucs d’Aromates,Parmentière à l’Oseille
Pigeon de la Dombes Confit à la Graisse d’Oie
Ballotin aux Deux Choux
Plateau de Fromages Affinés
Pains aux Noix et Noisettes
Dessert de la Paulee
Cafe Noir & Chaud
ワインは参加者の持ち寄りであるが、それらは生産者や関係者達の「お宝ワイン」。参加者達は忙しく、しかし嬉々として自ら持ち寄ったワインを注いで廻る。テーブルに置かれた各自のグラスは水用のものも入れて4つだがぐずぐずしていると、あっと言う間に足りなくなる。しかも前後左右からバンバン注がれるワインは、ああ、お宝。しかしこの日ばかりは、みみっちいマニア心(?)も潔くかなぐり捨て豪快に飲み、飲み干し切れないものは惜しみなくワインクーラーに捨てていく。誰もがエピキュリアン(快楽主義者)になれる日、それがポーレなのである(ちなみに同行者に言わせると、ポーレで私は毎回異常にハイ・テンションであるらしい。しかし私から見れば同行者も然り、である。ポーレの威力、ここにあり)。
パーティを盛り上げる、コーラス隊。 |
この日を盛り立てた陰の役者、シェフ・チームとサーヴィスの皆様方。 |
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祭りの後のテーブル。空き瓶にこのパーティに対する、出席者の気合い(?)が感じられる。 |
祭りの後も、ポーレは続く |
12時半に始まるポーレが終了するのは6時頃。しかし祭りにかけるラテンの体力を侮ってはいけない。ポーレ終了後は恒例の「セラー巡り」が待っており、ここでまたもや飲み直す(!)のである。 ポーレ後に訪れる数カ所のカーヴは毎年持ち回りであるらしいが(今年はドメーヌ・ボワイエとヴァンサン・ジラルダン)、最終地点は毎年アンリ・クレールのカーヴである。
このアンリ・クレールのカーヴがまたまた圧巻なのである。なぜならこのカーヴはブルゴーニュで唯一の完全な「天然カーヴ」。赤色石灰をくり抜いてあたかもシャンパーニュのように延々と続くカーヴは、ワインに関心が無い人でも120%度肝を抜かれる未知の空間だ(この空間を撮るには、私のカメラは役不足)。そしてカーヴの最深部では長テーブルが設けられ、そこには飲み放題のワイン、パテやフロマージュの山。宴の再開である。日本人チームに再度これらをチャレンジする余力は殆ど残されていないが、一方フランス人達はまたもや果敢に飲み、食べる。恐るべしフランス人のエピキュリアンな胃袋、である。
ポーレの後は、恒例のドメーヌ巡り。ヴァンサン・ジラルダンのカーヴにて。 | フィリップ・クレール氏。ポーレの最終を飾る、アンリ・クレールのカーヴはブルゴーニュで唯一の天然洞窟カーヴである。 |
最後に |
「もし人知であるワインが地上から消え去ったら、健康や知性は空虚なものとなり、恐ろしい欠如が生まれるのではと思うのである。ワインは我々の過剰な不安をも請け負ってくれるものである」。
今年のポーレのパンフレットを飾った、ボードレールの言葉である。エピキュリアンな1日にも、そこにはフランス人のワインに対する原点の思いが詰まっている。そして一東洋人にも時代を超えてそのエスプリに触れることを許してくれたポーレを思い起こし、新たにワインに対する思いが深まるのである。
ところでポーレは、昨年に引き続きアカデミー・デュ・ヴァン東京校の矢野 恒(ひさし)先生と先生のご友人であるアラン・グラ氏のはからいで参加させていただきました。先生のご交友の深さには毎度ながら脱帽します。お二方、そして暖かくパーティに迎えてくれた出席者の皆様方に再度感謝の気持ちを込めて、このレポートを終わらせていただきます。