DART et RIBO 〜再会!最新情報〜

(Croze−Hermitage 2003.7.17)



 

 

 ビオ界(?)に身を置いているとダール・エ・リボに対する評価は「北ローヌを代表する自然派の2人(ダール氏とリボ氏の二人のドメーヌである)」と確実に絶賛傾向なのだが、一歩ビオ界から外に出ると「どうもピンと来ない」と見向きもされていないこともある。飲み手がワインに求めるスタイルによってはっきりと評価が分かれるドメーヌであると言えるだろう。

 しかし当人達は周囲の騒音をよそに、彼らのフィロソフィーに基づいた方法で彼らがこの地のワインの中に求める味わいに日々近づこうと、黙々と仕事を実践しているような感がある。それが前回訪問時のレポートの表題を「天才的マイ・ペース」とした理由でもある。

 

注:基本的な畑・醸造データなどは前回のレポート「DART et RIBO 〜天才的マイ・ペース〜(2003.7.18)」を参照してください。

 

ドメーヌ最新情報

 

 フランスの今年の猛暑はフランスワインの熱心なファンならずとも、耳にすることがあるかもしれない。その暑さは「1945年以来の世紀の暑さ」と言われ、猛暑にともなう干魃(かんばつ)は「1976年以来」とも言われている。北ローヌもその例に漏れず、7月には期間限定付きでクローズ・エルミタージュの樹齢の低い木等に撒水許可が出たほどだ。

「根の吸水力に任せているから撒水処置は取らないと思うけれど、このまま雨が降らなかったら糖度の上昇は望めないだろうね。それにもう既にブドウの色づきが見られるんだ。このまま進めば遅摘みは無理だろうね」とフランソワ・リボ氏。そう、ダール・エ・リボの収穫の特徴は低収量に加えて、その時期の遅さなので、早熟なブドウは彼らの望むところではないのである。

 赤の収穫の前に大雨に見舞われた2002年に引き続き、今年は干魃。災難続きに思われるが、ダール・エ・リボには明るいニュースもあった。それはビオ・ファンにとって最も入手困難と言われるダール・エ・リボのアイテムの一つ「エルミタージュ」に新しいパーセルが加わる、ということである。正確には3年前に植樹を始めたこのパーセルは従来のパーセルが花崗岩土壌であるのに対し、丸い小石と重い粘土で構成された全く異なる土壌である。2004年より収穫可能となるこのワインをどう扱うかはキュヴェのセレクションの厳しいこのドメーヌのことなので現時点では断定できないが、リボ氏曰く、

「従来のキュヴェにアッサンブラージュすることになればワインにより複雑性が増すのではないかな」。まずはこれらの若い樹が干魃に負けず、直実に樹齢という力を蓄えることを祈るばかりである。

 

テイスティング

 

 今回のテイスティング銘柄は以下。(バ)はバレル・テイスティング、(瓶)はボトル・テイスティング。

     クローズ・エルミタージュ(ルーサンヌ100%) 2002(バ)

     クローズ・エルミタージュ(マルサンヌ100%) 2002(バ)

     クローズ・エルミタージュ ル・カ(Le K) 2002(バ)

     サン・ジョゼフ

     サン・ジョゼフ キュヴェ・ピトロ 2001(瓶)

     クローズ・エルミタージュ 2001(瓶)

     クローズ・エルミタージュ 1997(瓶)

     クローズ・エルミタージュ 2002(バ)

     サン・ジョゼフ 2002(バ)

     エルミタージュ 2002(バ→仕込んでいる3樽を飲み比べ)

     クローズ・エルミタージュ 2001(瓶)

     サン・ジョゼフ 2001(瓶)

     エルミタージュ 2001(瓶)

 

 白のテイスティングにおいて、ダール・エ・リボの「マロンとミネラルの旨味節」は2002年も健在であった。特に2001年が初ミレジムというクローズ・エルミタージュ ル・カ(Le K)。このワインのミネラルと酸の質は他のダール・エ・リボの白と比べてより抜きん出ており、ベースにあるホワイト・ポートのような甘さが心地よく、「旨味系(乱暴な言い方だが)」のこのドメーヌの白の中で最も洗練された感じがある。ちなみにキュヴェ名である「K」は「Les Carrière(石切場)」にちなんでおり、土壌はまるでリボ氏曰く「雪のように白い」白色粘土質である。樹齢70〜80年のマルサンヌから造られるこのワインの生産本数は800本。しかし残念ながらこのワインも彼らのセレクションの厳密さゆえ、2002年の瓶詰め予定は未定である。

 また「2001年は瓶詰めしない」と昨年リボ氏が言っていた「サン・ジョゼフ キュヴェ・ピトロ」もちゃっかり試験的に瓶詰めされていた。生栗、焼き栗、マロン・グラッセといった多様な栗と、オレンジの皮の心地よい苦味は十分に評価できるものだと思うが、昨年テイスティングした2000年のキュヴェ・ピトロに比べるとピノ・デ・シャラント様の甘さや少し酸化した感じが前面に出ており、従来のピトロが持つグラな深いミネラルにやや欠けるようである(でも美味しい)。

 また赤で最も印象的だったのはパーセル毎に仕込まれた3種のエルミタージュの比較テイスティングである。赤い果実の酸のレベルが際立つ樽、より熟した赤い果実がミネラル、ガリーグと綺麗に調和した樽、スミレや黒コショウなどのスパイスの香りと細かいタンニンが顕著な樽。

「アッサンブラージュの楽しさはこれらの味わいをいかに調和させるか、ってことなんだけれどね」とリボ氏は言うが、同じブドウを同じように仕込んでパーセルの特徴がこれほどまでに出るという事実に、理屈抜きで驚かされてしまう。しかも2004年以降は先述の土壌が全く異なるキュヴェがアッサンブラージュされるかもしれないのだ。これだからダール・エ・リボは目が離せない!

 クローズ・エルミタージュの樽ごとのテイスティングは今回行わなかったが、リボ氏曰く「来年以降別々に分詰めしようかとも考えている」というくらい、やはりパーセル毎に異なる個性があるらしい。ただ現実問題としてパーセル毎に仕込むには収穫量が少なすぎるのと、ダール氏、リボ氏ともにアッサンブラージュの楽しさも捨て難いということで、現時点ではあくまでもアイディアの一つに留まっているようだ。

 ところで前回訪問時のレポートで私は彼らのエルミタージュを「エルミタージュに究極の形があるかと尋ねられたら、私は自信を持ってこの日飲んだエルミタージュを答える」と書いたが、「ピュアさを追求したスタイルの中で」という言葉を付け加えておきたい(なぜなら時間と共に官能を増すルイ・シャーヴのスタイルや品のある骨格を体現するシャプティエのスタイルを考慮していない書き方だったからである)。

「ワインは飲めてナンボのもの。タンニンでがちがちに守られて美味しく飲めるようになるまで何十年もかかるワインを造ることには興味がないんだ」とリボ氏が言うように、「早くから飲め、過剰さを排除し、各テロワール由来のブドウが持つ純粋さを一点の曇りも無く表現する」ことがこのドメーヌのスタイルなのであろう。そしてこのレベルを達成する為には、当然ながら畑と仕込まれたワインを注意深く見守り必要な手助けをセンス良く行わなければならないことは必至であり、そういう仕事の結果である彼らのワインを口にした時、やはりその完成度に脱帽するのである。

 しかし前回訪問時にテイスティングしたクローズ・エルミタージュ ルージュ 1989年然り、今回のクローズ・エルミタージュ ブラン 1997年(「何か熟成したワインを飲んでみますか?」というリボ氏の嬉しい申し出に、前回が赤だったので今回は白をリクエストしたのである)然り。何十年というタームを意図していないとしても彼らのワインは熟成を経て、なおそのピュアさ、複雑さを増すことをテイスティングの最後に付け加えておきたい。クローズ・エルミタージュ 1997年にあるミックス・ナッツに入っているナッツの全てのようなナッティさ、藁、ノワゼット、グラなミネラル、蜂蜜、微かな白コショウやホワイト・チョコ。それらがグラスを回す度に顔を出し長い余韻まで繋がる様は、今こうやってレポートを書いていても臨場感を持って思い出されるほどである。

 

訪問を終えて

 

 前回のレポートでも書いたが「ジャーナリスト嫌い」と知られるダール・エ・リボ。3月に1週間ローヌ全域で行われたローヌ最大規模の試飲会会場にも当然ながら彼らの姿は無く(彼らはこの時、このドメーヌで土曜日恒例である「顧客とのテイスティング」をカーヴでひっそりと行っていた。ああ、マイ・ペース!)、彼らのレポートに関しては毎回写真が無いのもそのせいである。

 しかしリボ氏は前回訪問時に私がテイスティングした銘柄や、一緒に訪問した男性の特徴やコメント、さらにアプリコットを私にくれたこと等(前回私がアプリコットが好きだというと、他人の果樹園から〔←いいのか?〕アプリコットをもいで手渡してくれた)、こちらが驚くほど覚えているのである。

 「顧客の顔が見えるワイン造り」というスタンスも、このドメーヌの味わいに一役買っているのかもしれない。