Thierry GUYOT 〜天然ビオおじさん〜

(Saint−Romain 2002.6.27)


 

 

VIVAVINというネゴシアンの試飲会で二人のビオディナミ生産者と出会った。一人はエマニュエル・ジブーロ氏。そしてもう一人はチェリー・ギュヨ氏。ジブーロ氏とジブーロ氏のワインに少し硬質なものを感じるとすれば、こう書くとご本人に怒られそうだが、ギュヨ氏はその少し漫画的な親しみやすい風貌と言い、彼の造るワインに常に柔らかくて透明感のある果実味を感じるところと言い、良い意味で「天然ビオおじさん」。しかしともあれワインが非常に印象的だったのは事実で、最終的に彼のドメーヌにもジブーロ氏に書いたのと同様、こう書き留めている。

―全てAOC以上。行くべき−  

テイスティング 2000&2001 

  
ギュヨ氏の前のアポイントは、サントーバンだった。サントーバンとサン・ロマン。地図を見れば決して遠くない。しかしいざ移動すると、遠い。谷を一つ越えた感がある。ボーヌから知らぬ間にサン・ロマンまで辿り着いてしまう、コート・ド・ボーヌの地続き感は全くない。家屋の向こうにそそり立つ灰白色の岩が剥き出しの山肌に、まだ落ちない日が反射してそれはとても美しい。

彼は、現在8haの自社畑で8つのアペラシオンを生産している(ブルゴーニュ・アリゴテ、ブルゴーニュ ブラン&ルージュ、ブルゴーニュ・パストゥグラン、サン・ロマン ブラン&ルージュ、ボーヌ レ・ボン・フーヴル、ピュリニィ・モンラッシェ、ヴァン・ムスー)。今回のテイスティング銘柄は以下。

 

2001年 バレル・テイスティング

彼は1986年よりビオディナミを実践している。収穫したブドウは部分的に除梗するが年によっては、まるごと醸造する。ブドウの果実味とアロマ、骨格を最大限に引き出すために、衛生上許す限りの長さ(最高で30日。顧客の要望によるが、彼は基本的にはSO2を使用しない)のキュヴェゾンの後、樽で二時発酵、熟成を行う。(ピュリニィ・モンラッシェにおいては、新樽25%)。清澄、濾過は一切行わない。

Blanc

*ブルゴーニュ・アリゴテ

*ブルゴーニュ・ブラン

*サン・ロマン・ブラン(樹齢45〜60年)

*ピュリニィ・モンラッシェ(樹齢45年)

Rouge

*ブルゴーニュ・ルージュ

*サン・ロマン・ルージュ(樹齢35年)

*ボーヌ レ・ボン・フーヴル(Les Bons Feuvres)(樹齢30年)

ボトル・テイスティング

Blanc

*サン・ロマン 2000

*ピュリニィ・モンラッシェ 1996

 

SO2を基本的に使わない。そのせいか試飲のために樽を開ける度に、栓が飛び出すのでは、と思うほど景気よくぽんっ!と音がする。彼曰く、「バランスの良いワインに、SO2はいらないのさ」

しかし彼のバランスの良さは、バレル・テイスティングにおいてはかなりピンポイントなバランス。テイスティングの際、いつも真っ先に頭に浮かんだイメージをメモするのだが、各キュヴェのイメージは以下の通り。

*ブルゴーニュ・アリゴテ:鉄と草とヴォリューム。

*ブルゴーニュ・ブラン:乾いた清潔な藁とロワールのハーブ。

*サン・ロマン・ブラン:ミネラルと柑橘&フローラルの香水とシェーブル。

*ピュリニィ・モンラッシェ:柑橘と、蜂蜜を塗ったマッシュルーム。

*ブルゴーニュ・ルージュ:ガリーグと甘草と牧場。

*サン・ロマン・ルージュ:発酵茶と甘草。

*ボーヌ レ・ボン・フーヴル:黒いサクランボと漢方。

 非常に乱暴な言い方を敢えてすれば、レジョンを越えて「ビオ味」というものがあると思う。自然に凝縮したブドウで、SO2不使用もしくは極力抑えて生産されたワインに共通した味わいだ。ビオディナミであってもSO2を通常通り使っている生産者に、「ビオ味」は見られない。そしてその共通した味わいとは漢方薬やオリエンタル・スパイスを思わせる独特の甘さや、人肌の暖かさ、奥に潜む(潜んだまま飲み終わってしまうことや、輸送になって台無しになってしまうこの多い要素だ)非常に息の長い酸。

この「ビオ味」自体が、ピンポイントなバランスの上に成り立っていることがある。つまり外せば「?」で終わり、当たれば時に自分のアペラシオン観やセパージュ観を改めざるを得なくなる。彼らのワインがINAOの官能検査で「これは、ウチのアペラシオンらしくない」という理由でアペラシオンを拒否されることがあるが、INAOもきっと「美味い!」と内心唸りつつ、やはり仕事を増やしたくないのだ。そして前置きが長くなったが、彼のワインも明らかに「ビオ味」で、着地点が成功側にあるピンポイントだ。

続いて行ったボトル・テイスティングのサン・ロマン 2000は、ヴィンテージ、醸造段階の差は勿論あるがバレル・テイスティングで見られたピンポイントであるが故のきわどさは陰を潜め、人が付けている香水の香りや、試飲会場で飲んだ印象と同じく柔らかで透明感のあるミネラルと果実味が非常に心地よい、親しみやすさが後を引く(?)ワインとなっていた。

また、思わず「うまっ!」と叫んだのは、ピュリニィ・モンラッシェ 1996。ノワゼと白トリフ、白コショウといった高貴な熟成香と共に、綿菓子やポン菓子(今でもあるのだろうか?)のような、香ばしくなんとも懐かしい香りもある。口に含むと、熟した白桃のような甘さと、しっかしとした辛味のある酸、噛めるようなヴォリュームがあり、確実にプルミエ・クリュの力がある。

 

天然ビオおじさん 

勢いよく樽の栓を開けていく彼の様子や、セラーからセラーへ移動する時(彼は赤と白のセラーを分けている)の後ろ姿は、やはりなんとなく愛嬌がある。しかし彼が実行していることは結構大胆だ。

まずは、本当にSO2不使用も時に実行してしまっている、ということ(→参:エマニュエル・ジーブロ氏)。日本でSO2無添加と紹介されている生産者でも、実際会うと瓶詰め時等にごく僅か使用する場合が多く、それは悪いことではないと思う)。SO2を使用しないことで腐敗や過剰な酸化との闘いが始まるわけだが、それを歯に衣着せずあっさりと「衛生状態が許す限り」と言い切るところが潔い(もちろん彼のセラーは清潔で、それはブドウに力が無いと出来ないことだ)。そしてSO2使用・不使用に関して顧客の要望に(もちろん量には彼のポリシーがあるだろうか)応えられる、柔軟さ。裏を返せば自信。

又、あなたにとってビオディナミであることは、と聞くときっぱりと、

「宇宙との連動です」。他の人が言うと少し怖いか緊張してしまうこの言葉も、彼の口から普通に出るとやはり彼のワイン同様、その言葉がすーっと染みこんでしまうから不思議である。(宇宙との連動は、最終的に土の力を引き上げることとなる。土の力を引き上げることは、ビオディナミ生産者の最もベーシックな認識だ)

 帰り際に今回はビオディナミ生産者を中心に廻っているのだ、と言うと彼の「全国ビオ仲間」を紹介してくれた。にもかかわらず後日彼に質問があった時の為に、彼自信の電話番号を尋ねると、自信の番号を忘れていた、、、。 次のアポイントがシャソルネイであることを言うと、「友達だからね」とシャソルネイの家の前までてくてくと案内してくれる。

 やはり、彼は「天然ビオおじさん」。尊敬と親しみを込めて、そう呼びたい。

 

 

添付写真の説明:

@ギュヨ氏