10月

〜シャソルネイのフレデリックが手がけた、ボージョレ・プリムールを飲む〜

 

 

 

 このタイトルを付けた時点で、フレデリックの信頼のために断っておかなければならないのは、この試飲は「ボージョレー・ヌーヴォーのフライングではない」ということ。SOPEXA(フランス食品振興会)のメルマガなどを見ていると、近年ヌーヴォーの「フライング」が問題化しているようであるが、これはパリのワインショップ「AUGE」での試飲会で、フレデリックが「サンプル」として仕込み中のものを持ってきており、それを試飲する機会に恵まれた、というだけのことである。

 昨年、日本のヌーヴォー市場で最も話題をさらったのは、恐らくパカレだ。そして話題に敏感な日本である。今年パカレとの「飲み比べ」で筆頭に立たされるのは、このシャソルネイであると思う。

 では、この「仕込み中」のボージョレ・プリムール(パカレやフレデリックが「プリムール」と呼ぶ背景にはこだわりがあるので、ここからは「プリムール」で統一したい)。プリムールならフレデリックのやんちゃ(?)な性格と相まって、飛んでもなく弾けたワインかと思いきや、現時点では、いや、現時点で既に、「大人なワイン」であった。プリムールらしいフレッシュ感を保ちながらも、誰が飲んでもボージョレの特質がはっきりと「良い意味で」分かる、赤く甘い果実や上品なバナナやクレモンティーヌ(フランス版ミカン。ネーブルのような芳香性を持つ)、甘草、丁字のニュアンスがあり、香りの後ろにあるピノっぽい小梅感は、「ガメイはペッタリしていて嫌い」という人たちにとっても、心地良いものだ。テイスティングに同行したソムリエール(彼女のテイスティング能力はずば抜けている)も、「なんてワインらしい、プリムールなのかしら」と驚愕していた。

今回「AUGE」のこの試飲は「ブルゴーニュの生産者特集」であったが(参加ドメーヌは後述)、ボージョレが「ブルゴーニュとローヌの間の地」であることを、プリムールを(しかも仕込み中)通して感じた次第だ。

ところで、このプリムールのラベル。100年の樹齢を誇る「ラパン(ウサギ)」という名のモノポール畑にちなんで、「ウサギ・ラベル」である。もっとも私が見たのはラベルもまだ瓶に貼られていない「サンプル」であったが、なかなかカワイイ。ボージョレ・プリムールの時期には「ウサギのラベルのワイン、ください」でも通じそうである。しかしサンプル・ボトル&ラベルを持ったフレデリックを写真に収めたつもりが、カメラの不手際で写っていなかった、、、。ポーズを取ってくれたフレデリック、本当にゴメンナサイ、だが、ラベルはその味わいと共に、解禁日のお楽しみということでお許し頂きたい。

 

プリムールのボトルを手に、パカレ氏。

一方、パカレ氏もこの日はAUGEに登場。やはりサンプル・ボトルを持ってきていたが、フランスの熱烈なファンによって隠されて(?)しまった。試飲は2001年と2002年の3−4種類のアペラシオン比較、こっそりとコルトン・シャルルマーニュもあり、という涙が出そうなラインナップだ。ここで特筆しておきたいのが、リリース当時はその品のある「薄さ」で戸惑った人もいるだろう2001年であるが、今、その薄さの中にもくっきりとアペラシオンの個性が濃くにじみ出てきて美しさを増した、ということだ。また今回の素晴らしい出展者の中で飲み比べても、やはり抜きん出た「格」がある(もっともこれは、出展しているワインのアペラシオンの違いも考慮しなければ、不公平であるが)。そして多くの出展者が昼ご飯に抜けたり、後半はスタンドにいなかったりするのに、パカレ氏はとにかくスタンドでじっくりと、客達に対応する。小さな事だがワインは造った人そのものでもあると思うので、私はこういった氏の姿勢も含めて、パカレのワインが好きなのだと思う。

ちなみに余談ではあるが、今年パカレで収穫に参加した日本人は、7人(!)であるらしい。ブルゴーニュ全域に契約畑を持つパカレだ。25人程度ずつ二手に分かれての作業であったらしいが、かなりの日本人密度である。しかし日本人が収穫に参加する場合、出稼ぎ目的というよりは、殆どが自身の経験のためである。ならばきちんと手入れされた畑で、できれば楽しく作業できる方が望ましいが、収穫人の一人の話によると「いやぁ、よく飲んだわ」(笑顔満面)。余裕のある人数で、収穫を満喫した雰囲気がにじみ出ていた。

ともあれ、日本での一時の喧噪は落ち着きを見せた感のあるシャソルネイとパカレであるが、日本よりマスコミへの露出は非常に少ない本国でも地道に活動を続けつつ、着実にファンを増やしていっているようである。

 そして私は、そんなわけで明日から(この原稿を書いているのは、10/26)、ボージョレ行脚である。

 

(試飲会に出展していた生産者リスト)

 ドメーヌ・プリウル・ロック

 ドメーヌ・ド・ラ・コンブ

 ドメーヌ・シャソルネイ

 ドメーヌ・ヴァレット

 ドメーヌ・ドラン

 アリス・エ・オリヴィエ・ド・ムーア

 フィリップ・パカレ

 フィリップ・ジャンボン