9月 その2

〜収穫前の、インディアン・サマーが続く〜

 

 

 

 

 

 前回の裏話以降も、パリは気持ちが良いほどの晴天、そう「インディアン・サマー」が続いている(これを書いているのは9月18日)。秋を感じさせる、高く青い空。風は涼しくとも、日が昇ると屋外のカフェには日向ぼっこの猫よろしく肩を出したパリジェンヌが、ヴァカンスでの日焼けを維持しようと陣取り(?)に精を出す(紫外線を気にしながらも、この国の女性が「美白」に目覚める日は遠そうだ)。そして日が暮れると秋冬ファッションと夏ファッションが混在する不思議な光景に変わるのだ。

 しかしワインのHPとしてはパリの天気よりも、フランス全国の天気が重要だ。私がドメーヌ・クロード・デュガで収穫に参加するのは依然9月25日以降予定で、フィリップ・パカレで収穫を行う人によるとそれは27日以降、またコート・ド・ボーヌでは22日あたりであるらしい。要するに来週(9月20日)半ばからコート・ドールで、例年より若干遅めの収穫風景が繰り広げられることは間違いなく、まずは来週の天気が気になるのである。

 そこでWebサイトで来週のフランスの天気を見ると(無料サイトを参考にしたため、日が先になるに連れ情報が大まかになるのはお許し頂きたい!)、

 

9/19(日) 南東は多少曇るが、雨はごく少量。最高気温20℃。

9/20(月) 晴れ、ところにより曇り。最低気温6−16℃、最高気温19−26℃。

9/21(火) 全国的に快晴。最高気温21−29℃。

9/22(水) 全国的に快晴。最高気温21−31℃。

9/23(木) 晴れ。気温高め。

9/24(金) 晴れ。気温高め。

 

である。素晴らしい!!!収穫を控えている産地にとっては、涼しい目だった8月を、ここに来て一気に取り戻すことが出来るのか!?

 ところで前回の裏話では、「畑での病害は少ない」と報告したが、当HPお馴染みであるパリのワインショップ「カプリス・ド・ランスタン」のラファエル氏が、夏の間ブルゴーニュの生産者達の「生の声」を収集したところ、今年は多くの生産者がウドンコ病やベト病といった隠花系植物の害に悩まされているらしい(よって前回の裏話は修正しています)。つまり「乾燥気味だった初夏を解消する、適度な雨」は、皮肉にも病害をも助長したようだ。そして枝先剪定や除葉の加減は例年以上に判断力を必要とするものであったらしく、「畑での良い働きが、良いブドウとワインをもたらす」の鉄則以上に「まずは健全なブドウをいかに確保できるか」という生産者の腕が試される側面があるようだ。

 また確かな情報筋によるとコート・ド・ボーヌの局所的な雹害は、ポマールと特にヴォルネイでかなり深刻なようである。

 最終的な状況はコート・ド・ニュイに関してのみ自分の目で見てくることとなるのだが、来週一杯は安定確実(?)そうである天気予報をプラス要素に、ワイン・ファンにとってまずは最低でも胸をなで下ろす報告になれば良いと、願ってやまない。

 

スーパーのワイン・フェアが始まるものの、、、

 

 ヴァカンス気分が完全に抜けたこの時期、私にとって秋の到来を感じさせる一つが「スーパーのワイン・フェア」である(って、余りにも情緒が無い?)。ちなみに王者(?)「カルフール」は9/13〜25に開催。やはり大手である「オーシャン」の開催日(9/7〜18)後半を狙うところに、「ふん、客を奪回するのは、この私だ!」と言わんばかりの強気な姿勢を感じている在パリ日本人ワイン愛好家は、私だけではないだろう。

 しかし昨年はこのHPでも力強く「スーパーのワイン・フェア」をプッシュしていた私であるが、元来は出不精&人混みと行列が大の苦手な性格が災いしてか、どうも今年はハンターな気分にはなれない。また近年、スーパーは購入時に普通のクレジット・カードを受け付けてくれないことが多く(小切手や翌日引き落としの仏銀行系カードか、クレジット・カードの場合身分証明書が必要)、スーパーに多額の現金やパスポートを持参するのも、気分がハイでなければ少々面倒である。もっともフェアに行ってしまえば、否応なくハイになり、喜々として散財しているであろうことは火を見るよりも明らかなのだが。

 そんなわけでワイン購入時に向かう先は、フェアの時期であるにもかかわらず、常日頃お世話になっているワインショップであり、先述の「カプリス・ド・ランスタン」も私にとっては最重要なショップの一つである。

 

 先日は週末のバーベキューに手土産を持っていくために、やはりカプリス・ド・ランスタンへ。この日店にいたのはラファエル氏で、店に長居すればするほど接客の場に居合わせる機会は増える。そして「ラファエル節」を何度も耳にしているうちに、やはりこの店はパリにおいても特筆すべき店だと感じ入ったのだ。そう思わせるのは、ラファエル氏の的確な分析力である。

何となく店にフラリと入ってくる人、自分の明確な好みや、ご招待されつつも先方の好みや出てくる食事を計り損ねている人たちは勿論多く、その時はごく一般的に対応している氏であるが、氏の本領発揮は「ワインを飲むシチュエーション」が既に決まっている場合である。客の予算内で、そのシチュエーションに合ったただ1本のワインをビシっと探し出すのだ。そのための客への聞き込み(?)は非常に細かく、予算、人数、日時、場所と言った基本的なことから始まり、飲み手のワインへの理解度、合わせる食事、そして食事の調理法やソース、付け合わせの野菜、等々を、買い手のこだわりを尊重しつつ、微塵の手抜きも無く情報を聞き出していく。その態度は「その日の食事を楽しみたかったら、最善の努力を惜しむな」と言わんばかりで非常にパリっぽい。またその綿密な聞き込みも全く堅苦しいものではなく、パリジャン特有のアシッドなジョークがふんだんに散りばめられているので、退屈や緊張を招かない。そして何よりも「こうだから、私はこのワインを勧める」の「こうだから」の部分に非常に論理性が高く、それは「お茶を濁した」説明と対極にあると言えるだろう。いやはや、この店に居座るということは、マリアージュの講習をタダで受けているようなものであり(俗語の授業をタダで受けているとも言える)、洋服に置き換えると、同じデザインのものを吊しで買うか、採寸してもらって買うかくらいの差がある。

ともあれこの時期のスーパーのワイン・フェアは非常に魅力的、かつストックの補充にはこの上なく貴重で、「なぜにスーパーにこのワインが?」というような掘り出し物も満載だ。しかし本当の意味で掘り出し物を探したい時、いや、掘り出し物でなくても良い、心から1本のワインを満喫したい時には、やはりラファエルのようなカヴィストがいるワインショップがいぶし銀の輝きを放つのだ。パリの日常文化と言ってしまっても、過言ではないと思う(ちなみにラファエル氏は、英語も完璧です)。