裏話 8月

〜 コート・ド・ボーヌ最南端のAOC、マランジュについて少し 〜

 

 
 

  7月のブルゴーニュ最終行脚中(7/18〜26)、私にとってボーヌの街に来た時のお楽しみである「レストラン・媚竈(びそう) http://www.bissoh.com/」にお邪魔した時のこと。お店の方たちは皆ワインに通じていらっしゃるので、プチ情報交換が行われるが、やはりこの時期に気になるのは「現在までの、畑状況」。そしてこの時点での最新情報は、「マランジュで雹害が局所的に見られた」ということだった。

 

マランジュ。マランジュ3ヵ村(ドジース・レ・マランジュ、サンピニィ・レ・マランジュ、シュイィ・レ・マランジュ)が、コート・ド・ボーヌ・ヴィラージュからAOCマランジュに認定されたのは、16年前の1989年。しかし「じゃあ、マランジュってどんなワイン?」と尋ねられると、即答できる人は少ないのではないだろうか?

私がマランジュを初めてじっくりと飲んだのは、渡仏前、とあるワインショップでレストラン担当の営業をさせて頂いていた時だった。ショップのオーナーがヴァンサン・ジラルダンの「マランジュ プルミエ・クリュ ル・クロ・デ・ロワイエール」を気に入り、営業マンとしてはワインの味を知らずして力の入った売り込みはできない、というわけでかなり飲んだ。正直、素直に美味しかった。サクランボなどのベリー類に、ピンク・ペッパーのような上品なコショウ。意外としっかりした骨格は長命を感じさせ、コート・ド・ボーヌ最南端でありながら、何となくニュイっぽい華やかさもある。テーブルでのパフォーマンスが出来るワインに感じられ、実際に趣味の良いフレンチ・レストランには結構買って頂いた。

 

コンタ・グランジェのお二人。丁寧な試飲と説明に、あっという間に2時間半が過ぎていた、、、。

そんなマランジュに、「ドメーヌ・イヴォン・エ・シャンタール・コンタ=グランジェ」に訪問するために今回初めて足を運んだ。そしてコート・ドールで風景として最も異彩を放つのはサン・ロマンであると思うが、ここもかなり、違う。なぜなら例の「ブドウ街道」とも言える国道74号線からは、北隣であるサントネあたりから、まずずれ始める。結局74号線を離れ県道113号線をたどると、3か村の二つであるドジーズ(斜面村?)に到着、南側にあるサンピニィ、サンピニィから北東に延びる平地がシュイィ。文章で書いてもややこしいが、刻々と変わる何となく素朴さを残した斜面たちは、美しくも、どこかアルザスを思い出したりしてしまう。しかし「ブドウ畑になるべき」オーラは確実にあり6つのプルミエ・クリュは、全て完璧な南向き、かつ天然の排水性に富んだ小石も多い

ではそんなマランジュがAOCに乗り遅れたのはなぜなのか?それは行政上のコート・ドール県が北隣のサントネで終わってしまうこともあるが(マランジュ3か村は、ソーヌ・エ・ロワール県)、コンタ・グランジェご夫妻や書物によると、それは重い土壌(泥灰土や粘土メインの石灰)がマイナスに出ると、繊細さに欠けた厳しいタンニンを生み出し、ブドウの熟度にもよるが、タンニンの厳しさは果実味よりもワインにヴェジタルな青みが目立たせる傾向があるかららしい。要するに粗野になりがちなのだ。しかしこのタンニンも上手く導けば長熟を助ける骨格となり得り、そして典型的なマランジュとは深い色合いに相応しい豊かなベリー類、そして若い時期からなぜかスー・ボアなニュアンスを持つのだという。また優れたマランジュは悠に10年以上の熟成能力を持ち、綺麗ななめし革が感じられるらしい。

若い時期からスー・ボア?と思うが、確かにコンタ・グランジェで飲んだマランジュには、森林浴やタバコの葉のようなニュアンスがあった。そしてここで試飲した「95年 プルミエ・クリュ ラ・フュッシエール」には所謂熟成から来るスー・ボアが生まれ始めたところで、まだ果実味を十分にのこしていることを考慮すると、骨格に裏打ちされた、細くて綺麗な熟成が期待されるのである。

「モーニング」に連載中の「神の雫」ではコート・ドール最北端・マルサネが取り上げられていたが(日本に帰国後、しっかり読んでいたりする)、最南端・マランジュもなかなか興味深いのだ。

 

ところで最後に、ブルゴーニュの畑状況。私が訪問時にはベト病を始め、ウドンコ病も発生していたようだが、被害が拡大した昨年に比べても、今年は「まぁ、これくらいは起こり得る」という許容量内のものであるようだ(訪問した生産者談)。そしてフランスから聞こえてきた声は8月に入ってからの特に午前中の気温の低さ。しかし天気は良い(日照量はある)ようで、このまま9月も晴天が続くことをまずは期待したい(もっともフランスでは乾燥傾向が危惧されているので、晴れれば良い、というものでもないのだろうが)。