裏話5月

〜 ボルドーにて、初の和食 〜

 


 

ボルドーに「日本人シェフ」による、日本食レストランがオープン!

 今年もボルドー・プリムールに参加。ところで私の場合、試飲に疲れると「和食切れ」を起こす。ブルゴーニュ滞在時なら「Bissoh」( 小さなワイン・ニュース 〜 ブルゴーニュ初!待望の「日本人による、日本食レストラン」が、ボーヌにオープン!!! 〜)に駆け込む(?)ことが出来るが、一週間を通してタンニンの強い試飲を強いられるボルドー・プリムール期間中、まっとうな和食で一息付けないことは過去2年とも本当にキツかった。ちなみに和食ブームが定着した今、もちろんボルドー市内にも和食レストランはある。しかしボルドー在住の友人曰く、「シェフが日本人ではないし、パリの外国人が作る和食はまだ美味しいと言えるけれど、ここでは日本人が食べると首をかしげる類のもの。しかも『安ければ流行る』で、工場で大量生産されたものをそのまま仕入れていることも多い」。それは明らかに食べたくない。

 だが昨秋、ついにボルドーにも「日本人シェフによる、日本食レストラン」がオープンした。名前はなぜか「MoshiMoshi(もしもし)」というレストランらしからぬネーミングだが、前述の友人と共に試すことに。

 グラン・テアトル(大劇場)から徒歩10分足らずの、地味な広場にそのレストランは面していた。戸を開けると広々とした店内は石造りのボルドーの建物を「和」に上手くマッチさせており、手前は寿司カウンター席、奥は掘り炬燵テーブル。天井も高く雰囲気は良い。掘り炬燵席に到着すると、早速「おしぼり」サービスがあるところは、ニッポンだ。友人は白米、鯛の塩焼き(28ユーロ)、味噌汁(8ユーロ)を、私は寿司(松、25ユーロ)とやはり味噌汁をオーダーした。

 さて注文時は価格設定が高いな、と思ったものの、到着した品を見た時にその考えは打ち消された。寿司はともかく、鯛の塩焼きも味噌汁も、「え〜〜〜っ!」というくらいポーションが大きいのだ。聞けばシェフは以前ニュージーランドで和食レストランを営んでいた経歴を持ち、「欧米人が満足できる量」というのを熟知しているのかもしれない。そして肝心の味である。個人的にはやや塩が強いと感じたものの、魚類の素材が良く、大根おろしや白髪葱など、フランスにいると探し求めなければ手に入らない食材を豪快に使っているのが嬉しい。また味噌汁の具にはランゴスティーヌが大盤振る舞い。中途半端な「創作系」にはならず、上手くフランスの食材を使い、ヘンに小手先を使っていないところが非常に好ましい。ちなみに隣のフランス人カップルの一人は前菜に「フォアグラ寿司」を食していたが、フォアグラは照り焼きなど意外と「和」な調理法も合う食材である。こういったボルドー的な一品もなかなか美味しそうに見える。ただとにかく量が多いので、数人で行って数品を取り分け合う、というのがこのレストランを最大に楽しむ方法であるようだ。ともあれ店は木曜日という週の中日でありながら、フランス人で満席。ボルドーっ子の間では「ちょっとスノッブだけれど、満腹になれる場所」として、人気を得ているようである。

 

MoshiMoshi (ル・レストラン・ガストロミック・ジャポネ モシモシ)

8, Place Fernand Lafarque 33000 Bordeaux

Tel/fax 05-56-79-22-91

 

開放感溢れるホテル?

今回ボルドーに着いて驚いたのは、街が美しくなっていること。私が初めてボルドー・プリムールに参加したのは2004年だったが、当時はトラム(路上電車)の建築中で道路はそこら中掘り返され、街全体が工事現場というような風情だったのだ。しかもパリと比べ、建物の壁の色が黒かった。パリの建物は美観を保つために定期的な「壁掃除」が義務付けられているが、パリの明るいグレーの壁に慣れた目には、ボルドーの壁は何とも陰気に映ったのである。スタンダールがボルドーを指して語った言葉、「フランスの都市の中で、文句なく最も美しい」は理解できるのもではなかった。

 しかし前ボルドー市長アラン・ジュペの美化政策が功を奏したのか、まず壁が全体的に「白っぽく」なった。パリの建築物の原型にもなった歴史的建造物がもともと多いボルドー、壁が美しくなると石文化の重厚さが際だち、春の陽光がよく映える。そこに近代的なトラムが走ると新旧の良い加減の対比となり躍動感も生まれる。個人的にボルドーという街には閉塞感を感じていたが、随分と開放感も漂うようになった。

 しかし開放感も過ぎてはいけない。

 私はグラン・テアトルの近く、ボルドー市内の真ん中という便の良い場所にホテルを取っていた。しかもプリムールはとにかく疲れるので、私にしては珍しく「三つ星クラス」のホテルである。そして2日目の夜。この日もかなり疲労困憊して部屋に戻ると、部屋と思っていた場所が廊下に、、、?な訳がない。部屋のドアが完璧に開いたままだったのだ。廊下を曲がり続けると、ドアを開けずに自分の部屋に入れてしまった、というべきか。慌てて部屋の電気を点けるとベッドメーキングはされているので、恐らくルーム・サービスの従業員が完璧に部屋を閉め忘れたのだろう。だがこれは不用心すぎるし、部屋には下着なども干していたので恥ずかしい。幸い部屋には少額の現金以外の貴重品は残しておらず盗難も無かった。また部屋は最も隅に位置していたので、他の宿泊客が「開けっ放し」の部屋に気付くことも余り無かったかもしれない。それでも大体のホテルではベッドメーキングが午前中に行われることを思うと、約半日は開けっ放し、、、?もちろんフロントに陳情するも「えっ、長年このホテルに勤めていますが、そんなことが起こるなんて!?」とフロント側が驚く始末で、でも驚いたのは私の方だ、と言いたい。公私ともに旅行は多い方だと思うが街の真ん中のホテルで「そんなことが起こるなんて!?」である。

 ただ被害が起こっていた時のことを冷静に考えると、この場合泣きを見るのは明らかに私だ。部屋が開けっ放しだったこともホテルの従業員がその瞬間に立ち合っていなければ、あくまでも証拠のない「自己申告」であるし、貴重品をフロントに預けていたわけでもない。一つ言えることは、やはり盗られて困るものは、決して部屋に残してはいけない、ということである。