ワイン・ショップ系試飲会

〜レ・カプリス・ド・ランスタンの場合〜

 


  当HPでもお馴染み、パリのワイン・ショップ「レ・カプリス・ド・ランスタン(ちなみにショップ名は「一瞬の気まぐれ」の意)。間違いなく筆者が最もお世話になっているショップであり、映画「モンドヴィノ」のジョナサン・ノシター監督が「パリで最後のカーヴ」と称えたように、二人のカヴィスト、ジェラールとラファエルの良心や哲学、美学を感じるショップである。

ところでこのショップでも、月に約1度の頻度で閉店後に試飲会を行っている。二人が決めたテーマに沿ってワインを選び、会費は参加者が定員に達すれば店頭価格を単純に参加者の頭数で割るというものだ。司会者である二人の意見を聞きつつ、パンを囓り、意見を交わし、ワインを利く。非常に「良きパリ」な雰囲気が心地良い。そこで今回は「2004年下半期―2005年上半期」に行われた12回の試飲会のトリを飾る、「偉大なワイン達、、、飲めばあなたも天に昇らんばかり」に参加した、ミニ・レポートである。

 

ワインリスト(テイスティング順に記載)

 今回は余りにも異なる個性のグラン・ヴァン揃い。そこでショップ側が考えたテイスティング方法は、白と赤を交互に飲んでいく、というもの。せっかく普段は口にする機会が殆ど無いワインを飲むのなら、最後まで集中力を保ちたいからだ(味の違いを明確に感じるため、とも言える)。そして実際このような個性派揃いの場合、この方法はとても分かりやすく、楽しかったことを付け加えておきたい。

 ちなみに会費も「天に昇らんばかり」の225ユーロ。しかし以下のリストを見て頂ければ、大満足の(そしてこれもショップの良心である)225ユーロである。

 

ボランジェ スペシャル・キュヴェ(マグナム)

 

リースリング クロ・サンテューヌ 1997 (トリンバック)

ボンヌ・マール 1996 (ヴォギュエ)

 

シャトー・オー・ブリオン ブラン 1999

シャトー・ラフィット・ロートシルト 1986

 

モンラッシェ 1996 (モレイ・ブラン)

クロ・ヴージョ 1996 (ルネ・アンゲル)

 

コート・ロティ ラ・ランドンヌ 1995 (ギガル)

 

シャトー・シュヴァル・ブラン 1983

 

シャトー・パルメ 1966

 

パリのカヴィスト必殺技(?)、ダブル・デキャンティング。デキャンティングしたラフィットを、再度ボトルに戻すラファエル。ワインはどこまで強く、でも繊細であることも「舌」で知っていなければ、ラフィットをどのように扱って良いのかは分からないと思う。ブラヴォ、です。 二人のカヴィストにとっては、ワインと自身のカーヴの状態を確認する大事な瞬間でもある(ちなみにショップの地下カーヴは、生産者の蔵よりも温度変化が無いほどに完璧)。

 

セミナーではないので、雰囲気はごくフランク。もっともメモる人、写真を撮る人がいるのは日仏共通の風景。しかしこのラインナップのワインが揃うと、参加者の殆どは「二人連れ」で、少し独り身が身に浸みたりもする?(フランスは「つがい文化」なのだ) シャトー・ラフィット・ロートシルト。ああ、なんという麗しき複雑さ。

 

 こういうワインのコメントを延々と書いても野暮な気がするので割愛するが、ともあれ「幸せな夜」であった。そしてこのカーヴの保管状態の良さを舌で確認できたことと、「パルメ 1966」については少しだけ記しておきたい。

 

シャトー・パルメ。やられました、、、。

 日本でのワインの飲まれ方には時代によって「ブーム」があると思うが、今から10年くらい前のワイン会は、少なくとも大阪では「ボルドーのグラン・シャトー」というのは愛好家心をくすぐる一つの「ブーム」であった。既にパーカー氏の権威は日本にも轟いていたので「パーカーが、××点を出した!」というシャトーやミレジムは更に効き目があった。今になると少々(かなり?)恥ずかしいが、「フランス人でもこんなワインは飲めない」などと言われると、ヌーヴォーの8時間の早さを有り難く思うように、妙な優越感に浸ったりしたのだった。そんな10年くらい前に、大阪でこの「パルメ 1966」を飲んだことがあるが、確かに凄いなと思った。でもそれは素晴らしいと言われている美術品に今更どうこう言えないような、頭で納得する凄さで、「こんなに頑張ってくれて、ありがとう」でもあった。それはワインが経た環境のせいだと思うのだが、とにかくこれ以上華開くとは思えなかったのだ。

 だがどうだろう、この1966年は。トリのワイン会の更にトリのワイン、と来れば参加者の期待も高まるが、ワインがグラスに注がれる前のソワソワした期待感、その期待感を裏切らない序章(香り)、盛り上がる中盤以降(味わい)、ため息(余韻)、飲み終わった後の気ままなおしゃべり(満足感)、又出会いたいと思わせる未知の可能性(熟成のポテンシャル)。パリにいながらオペラなどの作品とは縁遠い残念な日々を送っているが、私の数少ない観劇公演に例えると、それは凄く楽しみにしていた作品を見る一日(しかもそれが観終わった後に更に良かった)に、とても似ている。ワインが美味しかったことで、多少は嫌なことがあった一日が、全て肯定されてしまうとでもいうのだろうか。パルメの後、グルグルと様々なことに思いを馳せたが、ワインがここまで魅せてくれるのなら、自分ももう少し踏ん張ってみても良いかな、という気分にさせてくれるのだ。

 

 まずは日の長い6月のパリで、このような試飲会を開催してくれたお二人に感謝、だ。またワインに関しては、日常と近過ぎて関心が薄いフランス人を顧客に、ワイン会が(しかもフランス人的にはとても高額な)店頭の宣伝だけで満員に達するショップというのは、非常に稀だと思う。

 そしてもしワインが好きな人がパリに訪れるなら、「レ・カプリス・ド・ランスタン」には立ち寄って頂きたいと心から思う。

 

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