7/9〜12 〜真夏のローヌ〜 |
今回のORGANISATEUR |
今回は今まで訪問した生産者からの紹介と、ベタン片手に自分でアポ取り。
今回のチーム・デギュスタシオン |
ヴァカンス中のソムリエ氏と、4回目の産地巡り。ただし帰国間近のソムリエ氏は途中で帰パリ。
今回のスケジュール |
7/18
タン・エルミタージュ着(北ローヌ)
15:00 DART et RIBO
7/10
10:00 Paul JABOULET―AINE
18:00 LAFOY et GASSE
7/11
11:00 エルミタージュの丘上り
帰パリ
この時期から8月上旬までのアポ取りは、かなり困難。通常でもビオ生産者を主体に廻ると畑仕事の多い彼らゆえ、昼間は畑に出ていることが多く捕まりにくい。捕まっても時に19:00アポということもある。それに加えてこの時期はヴァカンス。ビオであろうと無かろうと電話をかけても毎回同じ留守電が虚しく応答するのみ、ということは多い。彼らだって休みたいのだ。
生産者が畑仕事を休んで大丈夫なのか?という疑問はかつて私にもあったが、微妙な読みが必要となる収穫前、そして収穫が始まると一気に仕込みまで気が抜けないことを考えれば、比較的気候が安定している夏の期間はまだ休みやすく(もちろんこの時期に醸造上で必要な作業があれば休めない)、生産者によっては交代でヴァカンスを取ることも可能なようだ。
余談だが私の知る限り「最も休まない人」はやはり「ロワールの厳窟王」、クロード・クルトワ。息子さん達の話によると、彼がこの25年間の間で連続して休んだ日数は最高で二日。それ以上休むとどうも落ち着かないようだ。ちなみに息子さん達は彼らの遅い収穫が終わり、仕込みが一段落した冬のヴァカンスにスキーなどを楽しむようである。
急斜面体験 |
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タン・エルミタージュの駅。後ろに広がるのがエルミタージュの丘 |
急斜面の畑、と言われて思い出すのはフランスではやはり北ローヌだろう。ロティ、コンドリュー、エルミタージュ。
@急斜面体験その1:ロティ
まずはロティの丘の洗礼を受けることに。ラフォワ・エ・ガスのガス氏に彼の作業車(スズキ)で連れて行っていただいたのだが、彼の畑の一つに到着し、車から降りて足を滑らせる可能性を抱えながら見下ろす風景はとにかく怖い。何度くらいの勾配ですか、と尋ねると「45−50度くらいかな」。、、、、。ローヌ河に落ちるならまだしも、そのままローヌ河より遙か手前の下の道路に叩きつけられそうな想像が逞しく沸いてしまい(高所恐怖症である)、超へっぴり腰で畑に足を踏み入れる。一方ラフォア氏は、かなりご年配にお見かけするにもかかわらず、ひょいひょいと降りていく。「慣れているからね」という彼(短パン着用)の、腿裏とふくらはぎ裏の立派な筋肉の理由がわかった(でも彼も一度ずりりっ、と)。
ガス氏の畑の一つにギガルのランドンヌの真下に位置するものがあるが、彼の畑との間に舗装されていない小さな小道がある。その小道の入り口には「立ち入り禁止(ブドウ栽培者除く)」の表示が。そりゃ一般車にこの道は危険すぎるだろう。「一度ギガルのトラックがこの道から滑り落ちちゃって、下までだいぶ破壊しちゃったね」。無理もないだろう。
そうやってコート・ド・ブリュヌ、コート・ブロンドを見終わった後、今度は彼のヴィエーニュ・ヴィーニュの畑がある丘陵の高台へ。通過していく道路にある標識が凄い。「24%勾配」「28%勾配」。畑の勾配ではない。そそり立つ急斜面の間を縫う、道路の勾配である。なかには「超キケンな道(La Route Tres Dangereuse)」と言う標識も。
「畑作業は全て手作業で、、、」という説明も、ロティの優れた畑に於いては「手作業という選択肢しか無くて」と言ったところだろう。機械の侵入を許さない土地、ロティ。絶句。
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Chemin de l‘Hermitageの標識 |
A急斜面体験その1:エルミタージュ
エルミタージュの生産者を訪問する時に拠点地となるのが「タン・エルミタージュ」駅。夏の日差しがよく似合う、少し「隣のトトロ」風の可愛い駅。そして駅の東、つまり裏側にはいきなりエルミタージュの丘が鎮座する。名だたる畑は大抵車が無いと行けないことが多い中で、駅裏にあるエルミタージュの畑は「ノー・カー派に優しい」畑かもしれない?
駅の裏の通り「Chemin de l‘Hermitage(シュマン・ド・エルミタージュ:エルミタージュの小道)」を越えると、おもむろに畑へと続く道となる。しばらく登るとすぐに車が通れないような道となる(車道も勿論どこかにあるはずなのだが)。雑草の多い「ビオ畑」沿いに歩いていくと間もなくシャプティエの無人事務所(?)に辿り着く。小さな堀があり板が渡してあるので、万が一板が抜け落ちた時のことを考えて横の金網にしがみつきながら渡ると、シャプティエ側に着地。後は丘の上にある小さなシャペルを目指して、ひたすら登る。ならされた道もあるのだが、畑と畑の間に自然に出来たような細い道は畑の勾配そのままなので、やはりかなり急だ。
頂上のシャペルの上までの所要時間は、写真を撮りながらゆっくり登って駅から約25〜30分。シャペルからは眼下に伸びていく畑と、エルミタージュの街が一望できる。街の間を縫うローヌ河がまるで眼前にあるかのような不思議な感覚を覚える。ワイン好きにお勧めできるハイキング・コースだ(特に普段運動不足の人、アルコールが抜けない人は是非!)。
しかし下りは大変だった。方向音痴なので来た道と全く同じ獣道ならぬワイン道を選んだのだが、ヒールのあるサンダルを履いていたので、私自身に既に7−8%の勾配がついている。しかも花崗岩や、雲母片岩の小石がごろごろしているので、とにかく滑るのだ。これじゃ何分かかるかわからないので、仕方なく裸足で降りることに。しかし自然に優しいビオ畑は裸足にも優しいのだ!小石の間に元気に生えている雑草地を選んで歩くと、滑らず痛くもない。時々驚いたバッタやトカゲが草間から飛び出して行く。ほどよい達成感を得て、下山。
最後に駅前のバーで飲むビールは美味いぞー!
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駅の裏はこんな感じ。各社が自分の斜面を誇らしげにアピールする | エルミタージュの丘の最も高台より、パヴィヨンの畑を見下ろす。シャペルは15世紀に建てられたもの。眼下に広がる街は、手前よりタン・エルミタージュとローヌ側を挟んで、トゥールノン・シュル・ローヌ | 丘の上にあるシャペルより、ジャブレ側の畑を臨む |
道路建設反対!
コート・ロティ ランドンヌの眼下に走る道路を少し北上すると、ローヌ河を渡す大きな高架がある。橋の両側にはコート・ロティ側とヴィエンヌ(コート・ロティの最寄りの街)側それぞれにとって重要な幹線道路が走っている。河に沿って鉄道も通っており、高架周辺はこの地域の重要な分岐点なので「Le Carrefour National(国際交差点)」と呼ばれており、生産者を始め住民の生活に寄与している。
しかし前述のガス氏によると、この交差点を起点に新しい道路建設案が出ているらしく、それはこともあろうにコート・ロティの丘を貫通するものらしい。もちろん生産者は反対しているが、結果はまだ未定とのこと。
ギガルなど最大手が先陣を切って反対運動していることは想像に難くないが、最大手とは言えワイン産業がフランスに於いてこういう場合にいかほどの影響力があるのかが、残念ながら今の私には正確に分からない。しかしもう少し事情を明確にして、一ワイン・ファンとして畑を守るために出来ることを考える必要がある。
損害は、取り返しのつかないことになるかも知れない。