テロワールへの回帰

〜ブルゴーニュおける、ビオの動きとは?〜

 



 

2004年 加筆分

8月4日
化学薬品の使用低減について
5月27日
土への取り組み 〜踏み固めないこと〜
5月22日
フランス
他地域とブルゴーニュのビオ実践者の割合とは?


* 今回の加筆分は一定時間経過後、下記文章中に組み込まれます。加筆された部分が分かりづらくなるのを避けるため、暫定的に個別にアップしました。

 

2003年 加筆更新日
10月28日
7月31日
7月21日




7月21日アップ

「新進気鋭のビオ(注)の聖地」と言えば真っ先に思い出すのはロワール
であろう。ロワールには新参者が入り込む隙間が残されているのとその多様な土壌と品種の組み合わせのお陰で、時にINAOの規制など軽く無視して、非常に実験的な試みが自由に行われている感がある。

 ではブルゴーニュにおけるビオの動きとは?ロワールとの最も大きな違いは、「テロワールの表現」により自身の優位性を取り戻す、もしくは確立・存続するためにビオを実践している生産者が現在進行形で増えつつあるということであろう。そしてビオを選ぶ生産者の中に既に超有名な名前を見付けることが多いことも興味深い。

 一方でビオという手段ではなくリュット・レゾネ(非常に厳密な減農薬)を採用している生産者の間でも、そのストイックさは年々加速しているようである。やはり既に著名なクロード・デュガ然り、ベルナール・デュガ・ピ然り、フィリップ・シャルロパン然り。枚挙に暇がないが、この流れを大きく後押ししているのは、かのアンリ・ジャイエの「ブルゴーニュのワインとは本来テロワールを表現すべきものである」という教えであろう。

 そこでこのコーナーでは「伝統と名声」を請け負ったブルゴーニュの「ブルゴーニュにおける、ビオの動き」「テロワールへの回帰」をレポートしていきたいと思う。

 

(注)このコーナーで用いる「ビオ」という言葉は、「ビオロジー(有機農法)」「ビオディナミ(月カレンダーに基づく有機農法)」の両方を指します。

 

きっかけ

 

 ロワールのビオの過激さ(?)に後ろ髪を引かれながらも、ブルゴーニュのビオの流れに興味を持ったきっかけは昨年9月に訪問した、ドメーヌ・クリスティーヌ・エ・ディディエ・モンショヴェ(Domaine Christine et Didier MONCHOVET)である。彼はブルゴーニュにおけるビオの先駆者的存在だが彼曰く、

―現在ブルゴーニュにはシャブリからマコンまで、ビオを始めた年度によるが、少なくとも7つの「ビオ・グループ」が存在し、更にビオに移行中の生産者も約30人はいる。

ちなみに彼のグループ内にも以下のそうそうたるドメーヌの名前が並ぶ。

 

*Domaine Christine et Didier MONCHOVET 1984年よりビオディナミ(ドメーヌ瓶詰めは1989年より)

参照「生産者巡り」: 〜ブルゴーニュのビオ先駆者〜

*Chateau de Monthelie 1996年よりビオディナミ

参照「生産者巡り」: 〜モンテリーの誇り〜

*Domaine Emmanuel GIBOULOT 1996年よりビオディナミ

参照「生産者巡り」: 〜一歩一歩、ビオ〜

*Domaine de la ROMANEE CONTI 1985年よりビオロジー

*Domaine des COMTES LAFON 1998年よりビオディナミ

参照「生産者巡り」: 〜ドミニク・ラフォン氏に、ビオディナミを聞く〜

*Domaine Michel LAFARGE 2000年よりビオディナミ

参照「生産者巡り」: 〜ヴォルネイのバラ〜

*Joseph DROUHIN ドメーヌものにビオディナミ(1997年〜)とビオロジー(1990年〜)を採用

 

 グループ内での情報交換(お互いの畑の視察、土壌の研究結果など)は非常に盛んであるらしいが、何よりも興味深かったのは、モンショヴェ氏の話の中から「確立された王者」であるブルゴーニュの切迫した危機感と、「発展への一つの指標」のようなものが見えたからである。

 2003年6月再度モンショヴェ氏を訪問し、彼から1枚のリストを頂いた。そこには20名足らずの「ビオに取り組む生産者」の名前がある。彼はリストを手渡しながら、こう言った。

「もちろんこれらは全ての生産者ではなく、この中の誰と誰とが協力しあっているまでは私は分からないし、自分と頻繁にディスカッションする人達の理念は分かっても、そうでない人達がなぜビオを選んだのかはもちろん私が断言すべきではない。そしてビオを敢えて名乗りたがらない生産者もいれば、ブルゴーニュの枠を超えた独自のネット・ワークを持つ生産者もいるだろう」。

まだまだ混沌とした不確かな世界なのである。

 

とにかく根気よく、時間が許す限りこのリストにある生産者達の話を聞き、畑を見、そのワインを飲むことにしよう。そして間違えなく彼らの共通の目的である「テロワールの表現」に、ビオという手段が有効に働いているのか、自分の五感で確かめてみよう。何かが見えてくるかもしれない。

 

(追記)

 ご協力頂いたモンショヴェ氏に、この場を借りて御礼申し上げます。

 ちなみに前回訪問時から彼らが変えたこととして、畑においては「動物相(彼の飼っている馬やロバが増え、畑の近くにある森や川を鳥たちが住みやすい環境に近づけた)の変化と、近隣の穀物畑を増やし植物相が複雑になったこと(注)」(ニコラ・ジョリィを始め、ビオを実践する生産者の中には「単一栽培」が生態系をアンバランスにする、と唱える人は多い)、醸造においては「除梗をするようになったこと」を挙げた(ミネラルや酸が秀逸な白に比べ、彼の赤は前回訪問時やや果梗の青さが気になったので、個人的にはこれは良い方向だと思う)。

 1984年から始まった彼の実験精神は、ますます盛んである!

 
2004.5.27追加分

フランスとブルゴーニュの、ビオ実践者の割合とは?


 

「ブルゴーニュにおける、ビオの動向」を論じる最初に、ビオ実践者の数字を明記しておくべきであったが、「フランス食品振興会(SOPEXA)http://www.franceshoku.com/出典元http://www.oeno.tm.fr/」のメールマガジン(4/9)にやっと適切な資料が見つかったので、ここに抜粋しておきたい。

 

 「アジャンス・ビオ(フランスでのビオロジック農業推進のための公益団体)」によると、

  フランスで現在、ビオロジック栽培に取り組んでいるのワイン用ブドウ栽培家は1,400件で、その総面積は15,000ha(フランスの全ぶどう栽培面積の1.75%)。

  地域別に見ると、

  ラングドック・ルーシヨン:栽培面積の30%4,500haがビオロジック栽培。

  プロヴァンス:栽培面積の24%3,600haがビオロジック栽培。

  アキテーヌ(ボルドー):栽培面積の14%2,130haがビオロジック栽培。

  ボルドーとリヨンを結ぶ線の北側、ロワール、ボージョレー:拡大中

  ブルゴーニュ、シャンパーニュ:この地域のビオロジック生産者は、優れた品質で知られているが、数は少ない。

 

 この数字を見ると、南仏で圧倒的にビオ実践者(数字にはビオディナミも含まれていると思われる)が多いことが明らかで、同時にブルゴーニュやシャンパーニュでは統計として成立しないほどに、実践者は限られているのか?という疑問が湧く。

 では、なぜ北の産地では少ないのか?その理由として考えられる一つが、北部では時に壊滅的なダメージを与える「春の霜害」である。詳しくは「生産者巡り Domaine Philippe GOULLEY 〜シャブリにおける、ビオロジーとは?〜を参照にして頂きたいが、春の霜害の元凶となるのが畝に生えている雑草であり、ビオを実践する為の難関の一つは、「除草剤の排除」である。

 ビオでは畑の生態系を守る為に有効な雑草とブドウを共(競)存させることもあれば、除草剤に変わる手段として、馬やトラクターで鍬入れを行うが、観察力を必要とし霜害のリスクを伴う有機的アプローチよりも、除草剤を使用した方が迅速かつ人件費の削減にも繋がり、手っ取り早いことは事実である。

 また他に考えられる理由として、ブルゴーニュは意外と降雨量が多いこともあるだろう。特にブドウ房の成長期の雨は、病害を招きやすい。

 ともあれ、ブルゴーニュという地域自体に、有機的アプローチの困難性もあるようである。

 

 ただここでもう一度強調しておきたいのは、このHPで何度か述べているように、所謂「リュット・レゾネ」を実践しているブルゴーニュの生産者達のレベルは、総体的に高いということと、そして特に既に名声を得ている生産者の中には、ビオを名乗りたがらない者も多いということだ(もしくは名乗る必要が無い、或いはビオの普及活動よりも自身の畑仕事を優先する)。

 その最たる例が、クロード・デュガやデュガ・ピィ、ドゥニ・モルテといった生産者達であり、生産者間ですらビオと認知しているイヴ・ビゾ本人が、「特にビオではない」と語っている事実である。

 ブルゴーニュにおける有機的アプローチうねりは、この数字に出てこない部分にも、確実に存在すると捉えてよいのではないだろうか。

 

 補足であるが、欧州第一の農業国であるフランスは、農業全体で見ても有機農地の割合は全体の1.4%に過ぎず、EU内で13位と遅れている(参考資料:フランス食品振興会、出典元:2/3Le FigaroLe Monde)。


 

ブルゴーニュのテロワール回帰を知るためのキーワード&キーパーソン

 

 この欄については新しい情報が入り次第、加筆していきます。

 

@     GEST(Le Groupement d’etudes et Suivi des Terroirs)
 

 1995年、シリルヴ・ボンギロー氏(Mr.Cyrillev Bongiraud)と、ドミニク・ラフォン氏(コント・ラフォン) 、エティエンヌ・モンティーユ氏(ドメーヌ・ド・モンティーユ)等を中心にしたヴィニョロンにより、以下の目的の為に結成された。

* 彼らのブルゴーニュ・ワインがよりテロワールを表現できるものになり、かつその状態を存続できること。

* より環境に配慮した農業を発展させること。

 今日では多くの著名な生産者を含む(注)110余りのドメーヌが名を連ね、土壌の分析やそれぞれが所有する畑の観察、有機肥料の改良などが実践されている。

この流れはアルザスにも伝播し、1998年マルセル・ダイスやアンドレ・オステルターグを中心に約70の生産者により「Vigne Vivantes(命ある畑)」が結成されている。

また「より土と働く」という考えはフランス国内に浸透しつつあり、ラングドックでも15の生産者により独自のグループが結成された。

GESTのサイトは無いが、以下、フランスの新聞社「フィガロ」のサイトに彼らの活動が詳しく報告されている(2003年2月22日付)。
http://www.lefigaro.fr/dossiers/adv/figaro/vins/_art/vin_sols_lgasparotto_220203/vin_sols_lgasparotto_220203.htm
(注)加盟生産者:
コント・ラフォン、ドメーヌ・ド・モンティーユ、DRC、ドメーヌ・デュ・ヴィコント・リジェ・ベレール、ジャン・グリヴォ、ジル・ルモリケ、ピエール・エ・クリスチャン・グージュ(アンリ・グージュ)、J・J・コンフュロン、ノーダン・フェラン等。
 

(参照):生産者巡り Domaine de MONTILLE 〜生まれ変わるモンティーユ〜 
   (
ドメーヌ・ド・モンティーユ)
 
  Domaine du Vicomte LIGER−BELAIR〜2002年以降、La ROMANEEの鍵を握る若きヴィニョロンに聞く〜  
   (ドメーヌ・デュ・ヴィコンテ・リジェ=ベレール)
  Domaine Henri GOUGES 〜ニュイ・サン・ジョルジュ プルミエ・クリュの主張〜
   (アンリ・グージュ)

A     クロード・ブルギニョン氏

「土の権威」と呼ばれている。ブルゴーニュの土壌微生物学研究所LAMS(Laboratoire d’Analyse Microbiologique des Sol)所長。彼の顧客にはDRC、ルロワ、ニコラ・ジョリィ、ジャック・セロス等が尚連ねる)

住所:Route de Charmont 21120 Morey−Sur−Tille

電話:03 80 75 61 50

ファックス:03 80 75 60 96

→以下のサイトでLAMSの研究・仕事内容を見ることが出来ます。フランス語ですが写真も多く、顧客リストもあり、なかなか楽しめます。
http://www.lams-21.com/presentation.htm

B 
 ジャッキー・リゴー氏(Mr.Jacky RIGAUX)
 
ブルゴーニュ大学で理学、医学、哲学、人文科学を学ぶ。テロワールという観点から見た、ブルゴーニュ・ワインに関する著書が多数あるほか、毎年「世界のワイン生産、グルメ、テロワール」に関するシンポジウムを開催。日本でも「ワイン王国」2002年秋号でも大々的に取り上げられた。アンリ・ジャイエの教えを汲むヴィニョロン達を始め、生産者間で信頼の厚い氏てある。

☆7月31日アップ

C   BIODYVIN(ビオディヴァン)

 アルザスのツィント・ウンブレヒト、リヴザルトのドメーヌ・カーズを中心に、フランス全土のビオディナミを実践する27の生産者からなるグループ。Ecocertの基準を更にクリアした独自の定款を設け、実践している。

ブルゴーニュの参加生産者は以下である。

     Domaine Pierre MOREY 1997年よりビオディナミ

     Domaine LEFLAIVE 1990年よりビオディナミ

     Domaine LEROY 1988/1989年よりビオディナミ

     Domaine Jean TRAPET 1998年よりビオディナミ

参照:生産者巡り 〜今再び、トラぺ〜 

 

D   マダム・マリア・タン
「Calandrier des Semis(作業カレンダー)」、すなわちビオディナミ実践者にとってのバイブルの著者。

 

ビオディナミにおける調合基準の基本知識

 ボルドー液疑問派必見!

 

 ビオディナミを周囲から理解不可能(または非常に非科学的)に見せているものと言えば「月カレンダーと星座の運行に伴う作業」、そしてもう一つは彼らが用いる「調合物」であろう。同時にビオディナミを実践している生産者との会話にはこれらの「調合物」名がごく普通に出てくることがある(例えば「今日は『500』を行う日だ」等というように)。

そこでまずはこれらの種類、使用例などを簡単に整理しておこう。

 

調合物「超」基本編(500〜507)

     500:Bouse de Corne(牛糞を牛の角に詰め冬季土中に埋め、発酵・乾燥させたものを砕いたもの)→根の育成を助け、同時に土中の窒素をコントロール等する。

     501:Silice de Corne(結晶化した石英や長石を牛の角に夏・秋季土中に埋め、粉末状に砕いたもの)珪素の光吸収効果による、光合成効果と土中の過剰な湿度のコントロール

     502:Achilée Millefeuille(ノコギリソウの葉)→硫黄分の供給

     503:Matricaire(カミツレ)→石灰分の供給

     504:Ortie Piquante(イラ草)→鉄分の供給

     505:Ėcorce de Chêne(樫の樹皮)→生きた石灰分の供給

     506:Pissenlit(西洋タンポポ)→珪酸の供給

     507:Valériane(カノコ草)→リンの供給

(502〜507は乾燥後、粉末にして煎じた状態で用いられる)

 

 「Calandrier des Semis(作業カレンダー)」と照らし合わせながら、畑の状態に合わせて以上の500−507を組み合わせながら用いる、というのが基本である。

 

使用例「超」基本編

     収穫後:可能なら501を葉に施す(1〜3回)。

     発芽前:500を土上・中に施す(1〜3回)。

        501を土上に施す(1〜3回)。

     発芽後:501を葉に施す(1〜3回)。

(以上はBiodyvinの定款より)

 

 また6月には502のノコギリソウの葉(硫黄分)、504のイラ草(鉄分)、他にトクサ(珪素)が頻繁に用いられるが供給成分を見ても分かるとおり、これらは隠花植物(ウドンコ病、ベト病など)対策に 特に有効であるまた501やトクサの珪素は光吸収効果があるとされ、土中の湿度をコントロールすることによってやはり隠花植物の繁殖を防ぐ)ドメーヌ・コント・ラフォンのドミニク・ラフォン氏曰く、これらを組み合わせることにより、ベト病対策であるボルドー液の使用量が従来の1/ 5以下にまで減らすことができたそうだ。

 他にもトラぺやラファルジュなど、ビオディナミの長所の一つに「ボルドー液の利用を抑えることができる方法」があることを挙げる生産者は多い。

 

〜コント・ラフォンの調合庫にて〜

コント・ラフォンの裏庭に生えているイラ草。このままだと触れることができない草であるが、乾燥させて使う。 乾燥中のイラ草。鉄分供給だけでなく、害虫対策効果もあり。

トクサ。硫黄分供給。

500の「Bouse de Corne」を手にする、ドミニク・ラフォン氏。

 

オメオパティ

 ところでもう一つ気になる「害虫の死骸を焼いた灰を撒く」などの作業は、前述の500〜507が化学肥料にある成分を自然由来のものに置き換え土壌の環境を整えていくのに対し、オメオパティ(Homéopathie:同種療法。ホメオパシー。病原因子と同じ症状を引き起こす超微量の物を投与して治療、かつ治癒力を高める方法)の考え方に基づいている。「超」微量であることがオメオパティの鉄則である。前者も自然由来のものに置き換えることによって、極限状態に置かれたブドウ樹が本来持っている自然治癒力を引き出すという点においては、ホメオパシーの考えと共通している。そしてビオディナミにおいて両者の作業方法に根底にあるのは、「害虫」「病気」という個々の被害(原因)に個々の対応、もしくは手当をするだけではなく、それらの被害が生じた環境を根本から改善し、自然の持つ力にdynamiser(活力を与える)しようという考えである。

 

(注)ホメオパシーに関してはネット上で検索するとかなり出てきます。少しカルト的なページもあるので(?)、ご興味のある方は常識的なページを選んで読んでみてください。



☆10月28日追加 
 

ビオにおける代表的な害虫対策 〜性的混乱〜


 

コンフュージョン・セクシュエルのカプセル。この中に雌のフェロモンの香りが入っている。畑で見かけた人も多いはず。

 有機的アプローチを実践する生産者の口から頻繁に聞く「コンフュージョン・セクシュエル(Confusion Sexuele)」。直訳すれば「性的混乱」であるが、これは害虫の中でも「蛾の幼虫」対策であり、従来の殺虫剤とは根本的に異なるものだ。そこで蛾がブドウ樹にもたらす被害と、この「コンフュージョン・セクシュエル」の効能を見てみよう。

 

蛾の幼虫がブドウ樹にもたらす被害

 蛾は春先に活動を始め秋まで2〜4世代の繁殖を行うが、ここで問題となるのは成虫ではなく、「幼虫」である。

 幼虫は世代違いの彼らが孵化した時期にもよるが、「ブドウの花」「ブドウ果粒」から栄養を得、瞬く間に次の生殖活動を行えるまでに急速に成長する。特に深刻な被害をもたらすのは「ブドウ果粒」を食べる世代で、これは収量減だけでなく時に病害を引き起こすこともある。

 

「コンフュージョン・セクシュエル」の効能

 放っておくとねずみ算式に増える蛾の繁殖を絶つためには、1世代目の最初の生殖を絶つことが必至である。

 このコンフュージョン・セクシュエル(1995〜)が有機的アプローチを試みる生産者に近年急速に支持されている理由は、「蛾の雌のフェロモンと同じ香り」を利用して雄の生殖活動を文字通り「混乱させ」、殺虫剤を用いずに産卵を防ぐことができるところにある。

 具体的な方法であるが、写真のカプセルを蛾が繁殖活動を始める春先に、蛾(雌)の少ない区画に仕掛け、雄を雌の少ない区画におびき寄せる。雄は香りにおびき寄せられたものの当然ながらその区画には雌は殆ど見あたらず、「混乱」したままその短い一生を次世代に繋げないまま終える仕組みである。

 しかしコンフュージョン・セクシュエルにも弱点はある。なぜなら雄を大量かつ効果的に「混乱」させる為にはかなりの広範囲で「偽の香り」が漂うことが必要であり、ブルゴーニュのような一つの区画で所有者が分割されている産地では、有機的アプローチを試みる生産者が自分のブドウ列だけにカプセルを仕掛けても殆ど効果が見られない、ということである(参照:生産者巡りDomaine Bruno CLAVELIER 〜テロワールのモザイクを愛して〜」。ブリュノ・クラヴリエでもコンフュージョン・セクシュエルの効果が機能するまでに、3年の月日を費やしている)。

 よってボルドーなど一つのシャトーが広大な敷地を分散せずに所有する産地では生産者単位での効果も早いが、ブルゴーニュなどでは「地域的取り組み」として用いる必要があり、まだ課題は残るのである。

2004.5.24追加分

土への取り組み 〜踏み固めないこと


 

 土自体が本来持つ活力を引き上げることの試みは、化学薬品・肥料の排除、自然界に存在するものを用いての手入れを通して模索されているが、ここでもう一つ大切なことは「育て上げた土を踏み固めないこと」である。

 「土を踏み固めないメリット」に関しては、「生産者巡り FQUIPAGES(エキパージュ) 〜エリック・マルタン氏、そして馬と土〜」を参照して頂きたいが、「土を踏み固める」最も大きな要因は、年間の作業で使用されるトラクターである。そして現時点では過去の手段であった「馬を用いての耕作」が、土にかかる荷重の点において理想的とされているようだ。

 

 ただしエリック・マルタン氏の項でも述べたように、馬での耕作は理想的であるが、

ロマネ・コンティの畑にて。

@     耕作人・耕作馬ともに、圧倒的に数が少ない

A     時間とコストの問題

があり、すぐに実践に移すことが出来る生産者はごく一部である。しかしこの現状に対しても新しい取り組みが見られつつある。

 まず@の問題であるが、こちらは需要の増加に伴い従事者を育成するために、醸造学校などで「馬での耕作を学ぶカリキュラム」を設置する動きがあるようだ(現時点で私個人的にはまだ、具体的なカリキュラム内容を確認できていない)。またエリック・マルタン氏の会社でも増員・増馬中である。需要が安定し、

事業として確立されれば新たな志望者も生まれるであろうし、遠い将来には多少のコスト・ダウンも見込まれるかもしれない。

 またAに関しては、トラクター会社が軽量化に関していかほどの活路を見出しているかは不明であるが、少なくとも有機的アプローチを試みる各生産者レベルではトラクターの軽量化や、トラクターを入れる回数をいかに削減するかが一考されている。私がブルゴーニュで見た最も軽量級のトラクターは、このコーナーで何度も名前が挙がるモンショヴェ氏のもので、それはトラクターと言うよりも「四輪バイク」と言うべき、ごく小さなものである。そしてモンショヴェ氏自身はこの「四輪バイク」で、馬と同様、もしくはそれよりも低い荷重を実感しているようだ。

全ての作業におけるトラクターの軽量化は簡単ではなく、開発されても販売価格はやはり最初は割高になると想像されるが、普及すれば「時間とコストの問題」に大きく寄与することは間違いないだろう。

 

「土を踏み固めないこと」が普及することは、有機的アプローチの中でも最も時間を要するのかもしれない。しかし重要なポイントとして注目されていることは事実である。